2010年に見た映画(三十五) 「ハート・ロッカー」
原題名: The Hurt Locker
監督: キャスリン・ビグロー
脚本: マーク・ボール
撮影: バリー・アクロイド
音楽: マルコ・ベルトラミ,バック・サンダース
出演: ジェレミー・レナー,アンソニー・マッキー
時間: 131分 (2時間11分)
製作年: 2008年/アメリカ
2010年 4月鑑賞
(満足度:☆☆)(5個で満点)
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イラクのバグダッドで爆破処理作業に従事する男達を描く。
"戦闘行為"の最前線に立つ兵士としてではなく、"命の消失"の
最前線に立つ爆破処理という地味で根気のいるであろう地道な
作業を描いた作品を期待して観たが、そういった描写もあるには
あるが全体の趣きは違った。
戦争という困った行為の普遍性を描くのではなく、世界的に
武力を展開することで秩序を維持しようというパックス・アメリカーナ
を強く肯定する作品であり、その肯定が恐らくは無自覚であることが
この作品をB級作品たらしめ、多くの観客を困惑させ、特定の視点を
持つ観客からは怒りを買うであろうと思う。
中盤の敵を殲滅するシーンにおいて、敵か味方かの判断は
決められた法と具体的な識別に基づくものではなく、同じ民族か
同盟国であるか、それ以外または異民族であるという非常に大雑把で、
判断の誤りによる無用な殺戮が起こるであろう状況を強く肯定する
ものを感じ軽く戦慄を覚えた。古来から連綿と続く宗教戦争と非常に
根深い排他的な力学から結局一歩も出ていないことを思い知らされた。
イラク戦争が"そうだ"というばかりではなく、映画の描写の組み立てと
方向性が実際に起きている戦争と全くの相似形であるという点において。
後半で主人公(ジェレミー・レナー)がある事件の核心に迫るが
ここでも事件の真相はほぼどうでも良く、その事件の発端の理由付けは
今日の視点としては問題があり、「我々の側は常に正しく、悪は我々
以外の何かである」というメッセージが強力な電磁波のように張られて
いて、結局そのことが作品を貶めてはいないだろうか。ジェレミー・レナー
演じる主人公は現地の人々に偏見を持たないように自戒しながらの
行動である点はそれなりに描かれているので、本作にかかっている
強いバイアスが余計に気になり作品を単純に楽しむわけにはいかなく
なってしまっている。
映画とは莫大な金の投入の果実であり、とりわけハリウッド映画は
果実を無料で食わしてくれるわけではなく、原価を回収するのは当然
として、『利益』が出なくてはそもそも作られることはない。本作が監督
キャスリン・ビグローの元夫であるジェームズ・キャメロンが描いた壮大な
世界「アバター」(2009)とアカデミー賞で激しく争い、且つ勝利したのは
当然の成り行きだったといえる。「ハート・ロッカー」はある"力場"を維持
する側の作品であり、「アバター」は現実世界に疑問符を投げかけ
システムを変革するメッセージを込めた作品であったのだから。
戦争物の作品として、視点を一つ提供している作品ではあるが、
観客の視点を巧妙にコントロールするレンズの確信犯的な歪みは
強く、今後も「アバター」と賞を争った作品として見られ、製作スタッフに
とっても良いことではないが、これが『ハリウッド映画』という"見世物"の
宿命の一つでもあるのだろう。
監督のキャスリン・ビグローに手腕があることは間違いなく、本作は
骨太な風格を持っていて作品という箱としてはきちんと出来ている。
「ハートブルー」(1991)
「ストレンジ・デイズ」(1995)
「K-19」(2002)
は学生の頃に観ていてどれも楽しめた。本作も含めて"闘う男"への
賛歌と肯定があるように思う。キナ臭いものはキナ臭いものとして
韻を踏んで、その下にあるsomethingを描く力がこの監督にはあると
思うが、どこまで自覚を持っているかによるだろう。
ジェームズ・キャメロンは1945年8月の広島・長崎への原爆投下の
過程を克明に描いた作品を作ろうとここ数年模索しているが頓挫した
ままになっている。原作に虚構が入っていたことが主な問題であると
されているが、恐らくは製作は進みそうもなく、完成することも残念ながら
ないであろうことが本作の基幹部分を貫いているある強力な見えない
「磁場」を見せ付けられることで"この世界"の一端が垣間見えた気が
した。
我々一般市民は映画という箱と中身を見ているのではなく、知らない
間に箱の"中"に入って、箱の中に招き入れた興行主が「見せたい物」を
見ているに過ぎない。だから、そのショーの合間・合間、幕の開閉の
瞬間、演者の表情、口上の"間"をよく観ていると面白い別の物も見えて
きたりする。それすらも、興行主の狙い通りだったりするが。。
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