映画「ノーディレクション・ホーム」
「ノーディレクション・ホーム」
NO DIRECTION HOME
監督: マーティン・スコセッシ
出演: ボブ・ディラン,ジョーン・バエズ,アレン・ギンズバーグ,アル・クーバー
時間: 210分 (3時間30分)
製作年: 2005年/アメリカ
(満足度:☆☆☆☆☆)(5個で満点)
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"ボブ・ディラン"という現象と偶像の虚像と実像、その正体を本人を含めた多数の
人物のインタビューと膨大な映像から浮かび上がらせる。マーティン・スコセッシ
渾身のドキュメンタリー。
1961年の冬、ロバート・アレン・ジマーマン(ボブ・ディラン)はニューヨークへとやって
来る。"その後"の世界の住人にとって、当時は神話の時代そのもので街には伝説と
なる人物、ルーツそのものとなる人物でひしめいていた。ボブ・ディラン、ジョーン・
バエズ等は毎夜のように街頭へ繰り出し、自ら演奏し、誰彼なく自宅に訪問し、音楽
漬けの日々を送る。彼ら若い世代にとって、当時のニューヨークがいかに魅惑的で
可能性そのものだったか、観ていて興奮が如実に伝わってきて楽しい。
黎明期の一時を輝かせ若い世代を牽引したジョーン・バエズとディランの関係は
「フォレスト・ガンプ」(1994)においてもハイライトとして描かれた20万人が参加したと
いわれる1963年8月のワシントン大行進における演奏で頂点を向かえ、ボブ・ディランは
巨大な政治的潮流のアイコンとなることは潔しとはせず、脱皮を繰り返して二人の
方向性の角度は開いていくことになる。
自身の音楽を飽くことなく追求し続け、試行錯誤をひたすら繰り返し、昨日までの
スタイルに何ら拘らないディランに周囲は「自分のディラン像」に合わないと言っては
罵声を浴びせる。ディランはそんな周囲に困惑するが追求の手を緩めることは決して
しない。。
ボブ・ディランという現象に誰よりも本人が巻き込まれ、翻弄されていく様は時に
可笑しく、時に傷ましい。バック・バンドとしてディランと行動を共にした"ザ・バンド"が
批難の的となり続けるディランを支え演奏する様は将に騎士団そのもののように
頼もしく余りにも"映画的"である。
フォーク・ギターから、エレキ・ギターへと、演奏スタイルも歌詞も変化を全く厭わない
"求道者"のディランに対して、
"音楽"とは、かくあるべき物
"ボブ・ディラン"とは、かく演奏すべき者
として、激しい批難を浴びせるディランと同世代か、それ以下の若者の主張のある種の
お行儀の良さは観ていて新鮮で当時のアメリカの世相の一端を知る上でも貴重と
言える。20歳の時にNYに"上京"してから、多くのアーティストに触発され、自己の
スタイルを模索し続ける方向性自体には"振れ"が感じられずに心地いい。
大人になってからも政治的なスタンスを持ち続け、オピニオンリーダーであり続けた
ジョーン・バエズはデモの度に「ボブ・ディランは来ないのか?」と聞かれ彼女は苦笑しな
がら答える。「(彼が)来るはずがないでしょう。」と。
大戦の解放前後に多くの"次の世代"を担う人材が生まれ、60年代半ばのある時点を
焦点(その大きな一つがワシントン大行進だった)として拡散または霧散していく巨大な
人々の思考の流れの中で、ディランは最初からブロード・バンド的だったのではなかろう
かと観ていて思う。その帯域の広さと周波数が最初から一つではないことが膨大な
人々を困惑させ、また魅了させ今に至るのだろう。一つの「時代」の"形"を捉えることに
成功した実は稀有な作品の一つではなかろか。
帰る家なんて、在りはしない。だから、、
[ワシントン大行進]
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ワシントン大行進(ワシントンだいこうしん、The March on
Washington for Jobs and Freedom)は、1963年8月28日に、
アメリカ合衆国のワシントンD.C.で行われた人種差別撤廃を求めるデモ。
公民権運動家で、牧師のマーティン・ルーサー・キング・ジュニアらに
よって、人種差別撤廃を求める運動の一環として行われた行進で、
20万人以上が参加した。この行進の最中に、キング牧師の有名な
演説 I Have a Dream が行われた。
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(ウィキペディアより)
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コメント
こっちは
DVD買ってあるんですけど
まだ見てないんです
僕の持ってるDVDには特典として
フルサイズの60年代のライブが12曲ほど入ってるようです
投稿: 万物創造房店主 | 2012年3月22日 (木) 16時05分
マーティン・スコセッシの作品では
一番の出来だったりして(^^)
個人的に観た中では一番「映画的」
でした。
>フルサイズの60年代のライブが12曲ほど
今度お伺いした時に解説付きで
拝見したいものです。(^-^)
投稿: kuroneko | 2012年3月24日 (土) 02時10分
>解説付きで
僕はそれほどボブディラン好きでもないんで・・・
できません・・・
(^_^;)すいません
たぶん劇中に出てくる映像のフルサイズだと思うので
その場面についてはスコセッシが解説してるんじゃないでしょうか
投稿: 万物創造房店主 | 2012年3月31日 (土) 16時29分
>(^_^;)すいません
いえいえ、こちらこそ。
Don't Think. Feel!
ですね\(^^)/
投稿: kuroneko | 2012年4月 1日 (日) 00時34分