リーマン戦記(26)
リーマン戦記(26)
それぞれの未来
時には昔の話でもしようか。
学生の頃のある日、友人と徹夜で飲み明かして、夜が明けると
そのまま街へ繰り出し山の手線の某駅の改札出口に座り込んで、
また缶ビールを飲みだした。(←ダメ人間)
通勤時間を迎えて、改札から黒いスーツの軍団が猛然と自分達
に向かってダッシュしてきて走りすぎていく。それはある種、壮観な
風景だった。一緒に座り込んで飲んでいた一人が、その光景を眺め
つつ吐き捨てるように呟いた。
「俺は、絶対に、ああなりたくない」
画一化した格好をして毎日追い立てられるように生きたくはない。
と言いたいのだろう。
その後、友人は下を向いてさらに呟いた。
「でも、ああなるしかないんだよな。きっと」
その友人は「都会が嫌だ。人混みが嫌だ」とことあるごとに
呟き、大学卒業後はさっさと帰郷して、地方公務員となった。
半分は「ああなった」が、半分は「ああならなかった」というところか。
また、同じ頃のある時、別の友人と新宿の副都心辺りを闊歩して
いた時に、路上の片隅に大きな紙袋を傍らに置いて座り込んでいる
中年男性がいた。別に珍しくもない光景だったが友人は通り過ぎ様に
言った。
「俺は、いつかきっとああなる」
いつか、その中年男性のように、行き場所を失って路傍に座り込んで
しまう日が来ると言いたいのだろう。
その友人は特に生き下手ということでもなく、金銭感覚は不味いという
よりも、ちゃっかり蓄えるタイプのように思えたので意外な発言だった。
しかし、その友人は集団から疎外されがちな、体臭のようなものを持って
いてそのことをよく自覚した上での発言だったのだろう。
「俺、ああなりそうじゃね?」 (一。一;)
私は勿論否定した。
「いや、ならないよ。大丈夫」 (^-^)
その友人は、卒業後、某企業に就職したが本人の予想通り?に
会社の人間関係とシステムの中で自分の位置を見出すことが出来ずに
二年ほどで退社した。その後、官製の就職支援組織を利用して手に
職を付けて、将来は自営に近いスタイルを確立すべく某工場で汗して
働くようになった。今はどうしているか判らない。集団の中においては
上がることも下がることも本人の意思とは関係なレベルで潔しと出来ない
性格なので、きっと周囲を気にしなくてもいい気楽なその都度の作業を
請け負う仕事に従事していることだろう。その分、仕事そのものに
ありつけなければ即アウトという危機と闘っていくことになる。彼は、
"己"というものをそれなりに知っていたことになる。
自分は、満員電車に乗り、改札口を猛ダッシュして行くリーマン戦士の
波に何を見ただろうか。行くあてと生きる目標を失って路上に座る男性
に何を見ただろうか。
ただ、その光景を目撃したに過ぎない。自分は、数年後、彼らと同じ
ように改札を猛ダッシュで過ぎているかもしれない。バッグを抱えて路上で
呆然としているかもしれない。どちらでもあり、どちらでもないかもしれない。
どちらであったとしても、何の感慨も持たないだろう。走っていれば、歩き
たいと願い、人生に迷えば、方向性を見つける為に死に物狂いとなる
だろう。それ以下でもそれ以上でもない。
公務員となった友人は画一化された生活を呪いつつ、エンジョイして
いるに違いない。人混みの中に残り嬉々として生きてる自分をどこかで
呆れ、どこかで軽蔑して、どこかで関心してくれているかもしれない。
集団で動き何かしらの価値を見出していくことが生来苦手なもう一人の
友人はもう半ば独立しているか、しっかしと独立して気楽に楽しく生きて
いることだろう。飯のタネが途絶える恐怖と日々闘いながら。
私、kuronekoは、学生の頃に見た光景と友人が呟いた台詞を脳裏の
どこかに焼き付けながら、手の届く範囲の「蜜」に食いついて現在に至る。
何の特徴も無いスーツを毎日来て、満員電車に揺られ、改札口で走ったりは
(滅多に)しないが、人にぶつかったり、ぶつかられたりしながら、会社と自宅を
往復する日々。それが、いいのか悪いのか、選択出来るほど器用に
生きられないから判断しようもない。もっと簡単に美味しい蜜が吸える
ならば、そちらに行くまでなのだろう。
それぞれの人生。それぞれの未来。。
<=== Back To be continued ===>
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