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2012年4月 1日 (日)

映画「第9地区」

2010年に見た映画(四十一) 「第9地区」

原題名: District 9
監督: ニール・ブロムカンプ
脚本: ニール・ブロムカンプ,テリー・タッチェル
音楽: クリントン・ショーター
撮影: トレント・オパロッチ
出演: シャールト・コプリー
時間: 111分 (1時間51分)
製作年: 2009年/アメリカ,南アフリカ共和国,ニュージーランド

2010年 5月鑑賞
(満足度:☆☆☆☆☆)(5個で満点)

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ヨハネスブルクの上空にUFOが滞空してから20年が経過していた。
UFO内部から救出された"難民エイリアン達"は最初こそ人間達に
手厚く保護されたが、やがて放置される。彼等の生態に則した居住環境
の整備や人類と共生する為のルールの策定は遅遅として進まなかった。
人類とのトラブルは増加の一途を辿り、遂に"第9地区"からのエイリアン
達の強制退去の指揮を任命されたヴィカスは、誤謬の連鎖を犯している
ことに気付くこともなくカオスは累乗的に深まっていく。。   

 

 全体的に潤沢でない予算を脚本がほぼ最大限にカバーしていて
非常に小気味良い作品。本編開始冒頭のニュースコメントがナイス。

「ワシントンでもサンフランシスコでもなく
"なぜか"ヨハネスブルクにUFOが現れました」

『UFO』というものは大都市や活性化が熱望されている街に現れなくては
いけないものであるし、ゴジラを始めとする日本が世界に誇る大怪獣達は
その時々の観光スポットにご都合良く現れては破壊して歩かなければならない。

 UFOや宇宙人(地球外知的生物)は存在するものだとして、
そのうざったくて嘘くさいファースト・コンタクトの要約を最初の数分でさっさと
小気味よく終わらしてその遥か後の人類とのお話し(ゴタゴタ)を、というよりも
人類自身のゴタゴタの矛盾をひたすら押し付けられるエイリアンの受難を延々
と描く全体のプロットも実に素晴らしい。観客がずっとずっと観たかった"その後"
であり作り手にとって技術的・資金的に面倒くさい部分を見事なまでに
作りこんでいる。
 
 本作で終始最も目を引くのはエイリアンでもなく、UFOでもなく、シェルト・
コプリー演じるもしかしたら映画史上で最も哀れで孤独な男である主人公
ヴィカスが果てしなく撒き散らす「不幸オーラ」なのだろうと。ヴィカスは
多分、意図的に歴史上の"ある世界一有名な実在の男"をわざと連想させる
ようにその風貌とキャラクターが造られている。その男もまたとてつもなく
孤独な生涯であった。 

その男もヴィカスも本質的には悪意からではなく、無知と無智から来る誤謬の
連続を率先して行った結果、膨大な数の人間を死地へと送る結果となり、やがて
はたった独りで世界と戦う羽目になってしまう。ヴィカスは他人もろとも、自分が
無意識に仕掛けた罠に余りにも無様に"狩られていく"。人間が犯したあらゆる
過ちを分単位で行っていく惨劇に何度も目を覆いたくなり、二回ほど劇場を出た
くなったが、彼は一個人でなはく物語と同様に、人類の代表として私達が重度に
あるいは軽度に犯してきた過ちをたった独りで"成し遂げ"、やがて死ぬことよりも
遥かに無残な代償を払うことになる。

 エイリアン達の持つハイテクノロジーな武器類やクライマックスで大活躍する
バトル・スーツの洗練されたデザインワークス、 ラストの飛行船浮遊シーン等も
実に素晴らしい。そして偽善の欠片もないがゆえの哀しい展開ゆえにその幻想的な
シーンにおいては勝手にストーリーを脳内で補正して自分を盛り上げて観た。

 とてつもなくグロテスクで哀しくて虚しくて悪趣味で、この作品と作中の多くの
二度と観たくもない胸くそ悪いシーン(世界のどこかの"地区"や"ラボラトリ"内
で何から何まで全くもって同じ光景が今この瞬間も展開されているであろう)は
何十年もきっと脳内のメモリを占有することだろう。ゆえに本作は『傑作』である。

 鑑賞しながら思い出した映画は、、
「ロボコップ」(1987)
「ロボコップ2」(1990)
「ナチュラル・ボーン・キラーズ」(1994)
「アバター」(2009)などで、鑑賞後にふと思い出した映画は
「ダイ・ハード3」(1995)。

 「ロボコップ」(1,2)は残酷描写の多さという共通点とある種の露悪的な悪趣味と
主人公の置かれる異形な者に対する一切の容赦無い排除と差別について。

 「ナチュラル・ボーン・キラーズ」は、"他者の存在"に対する軽視と殺戮を
することの自己正当化の様を。

 「アバター」は、異種同士の共生の困難さと、その物語化と結末を。それら
に対するメッセージ(回答)の相違点を。

 「ダイ・ハード3」は、ブルースウィリスを補佐するサミュエル・L・ジャクソン
演じる"賢い黒人"の位置に対応する本作における主人公ヴィカスを冷めた
目で眺め続ける人類との共生を受け入れようとするエイリアンを。それぞれ
の作品が鑑賞中、鑑賞後にそれとなく頭に浮かんだ。

 ヴィカス等が犯した過ちを持って宇宙人達は「これが人間である」と断罪した。
世界のどこかでこっそりと製作されているであろう次回作『第10地区』
では一体どんな世界が待ち受けているのだろうか?

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コメント

これはラッキーな事に試写会に当たって見たんで、人より一足先に見れちゃったのですが
見終わったあと
DVD出たらそっこー買ってもう一度日本語吹替で見ようと思いました
 
最近作られた映画の中で
もう一度見たいと思った数少ないひとつですね
 
そういやもうすぐ
テッドVマイケルズ監督の
「シークレット・フィンガー 地上最強の美女軍団」

「10バイオレント・ウーマン 禁断の女囚刑務所」
のDVDが1500円で出ます
 
間彩さんによると「かなりの傑作」とのことなので、早速予約しました

投稿: 万物創造房店主 | 2012年4月 3日 (火) 19時10分

予算分、しっかりと作ってある
見せ方の"上手さ"が心地いい作品ですよね。
昨今の風潮の流れにおける映画のお手本ですね。
メジャー(莫大な資金)に阿らずに面白い映画を撮る方法。
 
 
>もう一度見たいと思った数少ないひとつですね
 
私はエイリアン君達の殺戮されっぷりがグロ過ぎ
るのとヴィカス君が余りに可哀相過ぎるので
思い出すだけにして当分楽しめそうです(^^;)
内容は及第以上なのに劇場を真剣に途中で出ようか
迷った初めての作品かも。。
「傑作」であることは間違いないですね。
  
どうも続編がありそうなので楽しみですな。
 

女囚物関連はそちらで行った時のお楽しみでかねー(^^)
一年以内には行くと思います。
「北野をどり」観たいすねー( ̄∇ ̄)

投稿: kuroneko | 2012年4月 4日 (水) 01時32分

>及第以上なのに劇場を真剣に途中で出ようか迷った初めての作品かも。。
グロはかなり免疫つけないとアレかもしれませんね
僕はもう「ネクロマンティック」も気持ち悪くならず普通に見れるぐらいになっちゃったんで
怖いもんなしですね
グロで笑えます
そういや「冷たい熱帯魚」はグロ大丈夫でした?
 
>「傑作」であること
アレだけ馬鹿馬鹿しいぐらいエンターテイメントというか
俗っぽくしといて
実はアパルトヘイトの問題提起みたいなきちっと言いたい事も入っているところもいいですね
 
>「北野をどり」観たいすねー( ̄∇ ̄)
夏になると
舞妓ちゃんビアガーデンが上七軒で開かれます
まだ行ったことないんですけど
リーズナブルなお値段で
舞妓ちゃんや芸妓さんとお話しながら飲めるらしいです

投稿: 万物創造房店主 | 2012年4月11日 (水) 18時25分

>「ネクロマンティック」
 
懐かしい響きですねー。昔昔、悪友と
見よう見ようと騒いではそのまんまな作品です。
次回「遊京」時に是非エントリーして欲しいすね(^o^)
 
>グロで笑えます
 
私はグロで憐れで、、ラストの展開はちょっと涙が出ました(ノ_`))
 
>そういや「冷たい熱帯魚」はグロ大丈夫でした?
 
こちらは全っっっ然大丈夫でしたねー( ̄∇ ̄)
「もっとやったれ」( ゚Д゚)ぐらいな勢いで。
 
自分にとって「第9~」と「冷たい~」の何が違うか考えて
みるに、「第9」の方は"エビちゃん"達は犯罪は行うとはいえ
"被害者"且つ"異形なる者"でヴィカスは自業自得だけど
情状酌量の余地はあるかなーということで、単純に
「可哀想」なんですよね。
「冷たい」の方はあくまでも原罪を背負った"人間達"の
ガチンコバトルで且つ登場人物達全員が何かしらの
個人的な負い目を背負っていることをきちんと描けて
いたので陰惨なぶっ殺し合いも、血しぶきも、内臓
ブチャーも素晴らしくエンターティメントしていて爽快感
すらあったのですね。
 
テレビでも海老や蟹が料理番組でいきなり頭から
真っ二つにされるとか生きながらに鍋に放り込まれ
れたりしていると即座にチャンネル変えちゃいますね。
(((( ;゜Д゜)))
「殺される理由が一切解からずに生きてる」ところに
得体の知れない気持ち悪さと"憐れ"を感じてしまう、、
 
>アパルトヘイトの問題提起

実に多くの問題提起がされていましたね。
・軍産複合体と社会と民間会社の複雑かつ密接な癒着
・先進国の後進国に対する確信犯的な後手の対策
・記事に書いたように小さな事象の誤りの蓄積がカオスを
産む組織論的な問題
・人間の心に潜む超暴力的・殺人的な"差別"意識
。。。
これでエンタメしていて映像のクオリティは高くて
制作費が低いのだから全くもってお見事すねー
 

>舞妓ちゃんビアガーデン
 
マジすかー( ̄ロ ̄#)
来年の夏は是非!
(今年の夏はちょっと無理そうですので(^^;))

投稿: kuroneko | 2012年4月12日 (木) 00時45分

>次回「遊京」時に是非エントリー
すでにグロムービー大会のときに
エントリーしちゃったんですよ・・・
http://banbutsusozobo.air-nifty.com/tensyu/2011/03/post-7846.html
 
>登場人物達全員が何かしらの個人的な負い目を
金儲けに誘われただけの一般人もブッ殺されちゃいましたけど・・・(ーー;)
 
>テレビでも海老や蟹が
踊り食いとか
活け造りとか
解体ショーとか
無理ですね・・・
 
そういや「ザ・コーブ」ではマグロの解体ショーがイルカ漁に挟み込まれてるらしいです
いやーモンドですな
 
>全くもってお見事すねー
ですねー
 
>マジすかー( ̄ロ ̄#)
マジっすよー
お茶屋さんに行けない身分のものとしては
舞妓ちゃんにお相手してもらえる
数少ない場所です
今夏、クロネコさんと行く前の練習に行っときます

投稿: 万物創造房店主 | 2012年4月17日 (火) 19時58分

>エントリーしちゃったんですよ・・・
 
OKっす(^^;)
 
>金儲けに誘われただけの一般人も
 
いけていない感じの人々の描写が
リアルで良かったですね。
"ローカル"オーラもバッチリ(*^ー゚)b
 
>いやーモンドですな 
 
『歴史』自体がモンドと言えばモンドですよね。
トリミングし放題。死人に口無し。。(*ΦωΦ)ノ
 
>練習に行っときます
 
よろしくお願いします!
来年必ず行くっすo(^o^)o

投稿: kuroneko | 2012年4月18日 (水) 23時44分

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