映画「月に囚われた男」
2010年に見た映画(四十四) 「月に囚われた男」
原題名: MOON
監督: ダンカン・ジョーンズ
脚本: ダンカン・ジョーンズ,ネイサン・パーカー
音楽: クリント・マンセル
出演: サム・ロックウェル,ケヴィン・スペイシー,ドミニク・マケリゴット
時間: 97分 (1時間37分)
製作年: 2009年/イギリス
2010年 5月鑑賞
(満足度:☆☆☆☆)(5個で満点)
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ヘリウム3を地球に送る仕事に従事する為に月に"単身赴任中"
の男サム・ベル。地球では、愛しい妻と最愛の娘がサムの帰還を
待ち続けていた。三年間の任期終了まで残すところ二週間。
居住区域を一手に管理する人口知能ロボットのガーティを相棒
にして任務は日々遂行され、順調に終わるかに見えた。だが、、
低予算であるとはいえ、SF映画として観るならば看過することは
難しいと思える"粗"があって多少のイライラはあったが、後半の
ハートウォーミングで熱い展開はエンターティメントの王道をきちん
と踏んでいて、観終わった後味はとても良かった。
言ってしまえば、これはSFというよりも、月を舞台にした今現在の
我々が生きる社会の価値感をそのままトレースした物語であろう
と思う。主人公に起こった受難は超経済至上主義のルール下に
おいては月でなくともどこでもいつでも起こる出来事であり、
核心的な部分については実際に起こっているであろう。
人命は金(MONEY)の前においては軽いというよりも
価値≒ゼロ または lim→0 である。
経済と政治とを両輪として成立してうる社会構造がバランス良くとまでは
言わないまでもトライアングルをそれなりに形成していれば、"彼等"の
運命は全く違うものになるだろう。と言っても作品自体については低予算
なりきに月面の描写も科学的考証はさて置き、観客が空想する「月面上っ
て こんな感じだろうな」的な雰囲気はそれなりに出ているし、ストーリーも
悪くなくむしろ、良く出来ている。
不満は、低予算ながら本格SF映画をかなり期待して観に行ったので
主人公に降りかかる受難がSF的要素による"不確定な罠"によるもの
ではなく、余りに現代社会の延長上のままのルールゆえの悲劇である
ことが個人的には消火不良だった。
人口知能のガーティがどこまで人間の要求に応えられるのか、
応えられないのか
と人間を取り巻いているハードとソフトの性能でサムの運命はほぼ
完全に決まってしまうはずで、脚本も台詞も「そこ」に練られた上ので
苦闘を期待したのだが、本作は基本的にはS・キュブリックとアーサー・
C・クラークが創造したハードウェアとそれを制御するソフトウェアの仕様
としての世界をそっくり優等生的に、悪くいえばチャッカリと継承してしまっ
ているので、ガーディは当たり前のように「2001年宇宙の旅」(1968)における
HALの機能の大幅な廉価版だと思ってみなくてはいけないことを観客に
さりげなくであるが、かなり強制的に要求している。
「2001年~」においてHALと人間が齟齬をきたしたようにガーティと
サムも微小であるが致命的な狂いを積み重ねてクライマックスに畳み
掛けてくれれば低予算ゆえに伝説的な傑作となったことは間違いないだろう。
が、恐らくは監督のダンカン・ジョーンズはバックボーンが判らないと置いて
いかれてしまうような要素を観客に押し付けたくなく映画を楽しんで欲しい
という精神で撮ったということなのだろう。
設定をウダウダ考えたくなく、映画を数ある娯楽の一つとして楽しみたい
人にとっては普通に楽しめることだろう佳作。何となく20代から30代女性が
一番楽しめるのではなかろうかと思う。映画に少しは詳しい人であれば、
ガーティの声をケヴィン・スペイシーが演じていることを知っておいて観た方が
より楽しめるだろう。多くの出演作品で演じてきた彼の醸しだす"不可解さ"は
本作でも充分にプラスの効果を発揮していて多分にハラハラ出来る。こっそり
と監督にも誰にもわからないように微妙に言い回しを矛盾あるものに変えて
いたりして。。
個人的には映画としてのルールよりも低予算の言い逃れの権利を活かして、
人間も機械も鉱物も所詮はレプトンの固まりに過ぎないのだ
と喝破(大言壮語)して大胆な仮説と飛躍も最後に見せ付けてくれて良かった
のではなかろうかと思う。
監督のダンカン・ジョーンズは今後もこの道を歩むのであればSFじゃなくて
人間同士の意地とプライドがぶつかり合う正統派?の重厚なドラマを描いたら
良いものが出来そうな気がする。
素晴らしい"遊び"が出来ているが故に、その可動域と方向が変なストレスを
もたらしてしまったのではなかろうか。惜しい作品。
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コメント
これも買ったまま見てないDVDのひとつです
(^_^;)
おとっつぁんの「地球に落ちて来た男」とともに・・・
投稿: 万物創造房店主 | 2012年4月23日 (月) 19時29分
まあスルーでもいい作品ですかね(^^;)
可も無く不可も無くという所ですね。
>おとっつぁんの「地球に落ちて来た男」
監督はニコラス・ローグだったのですねー
知らなかった(ノ ̄0 ̄)ノ
ロバート・ワイズの
「地球の静止する日」(1951)
はとても良く出来ていて関心しました。
特撮技術がそれほどでもなくても
見せ方がスゲー上手いです。
投稿: kuroneko | 2012年4月24日 (火) 01時51分