映画「怪人マブゼ博士」
「怪人マブゼ博士」
Das Testament Dr.Mabuse
The Testament of Dr. Mabuse
監督: フリッツ・ラング
撮影: フリッツ・アルノ・ワグナー,カール・ファース
出演: ルドルフ・クライン=ロッゲ,オットー・ヴォルニック,グスタフ・ディーズル
時間: 83分 (1時間23分)
製作年: 1932年/ドイツ [モノクロ]
(満足度:☆☆☆☆+)(5個で満点)
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偽札工場の黒幕を追うローマン警部と、ボスの正体を知らないままに指令に
従ってきた男女は、謎のキーワード"怪人マブゼ"の下に交錯していく。。
ナチス政権下において上映中止となったいわくつきの作品。法を蔑ろにして、
犯罪を犯していく男達の屈託の無さと、「真実」を知って消されていく人間や、
発狂していく人間の描写の迫真性、真の黒幕が犯罪者達にとっても一切不明な
まま事態が進んでいく点の不気味さなど、なるほどナチスがほとんどディフォルメ
無しに実際に行ったであろう手口をなぞっているようにも見え、上映を中止させ
られた理由の一端は確実に覗える。
本作においては、ローマン警部が我々庶民の想像する"警部"らしく太い体で
悪漢達に敢然と立ち向かっていく様が見ていて心地よく、作品全体に抜群の
安定感をもたらしている。ローマン警部と犯罪に手を染めながらも良心の呵責と
懇意の女との幸せを願う男の人間性が極めて健全に描けているので、存在する
のかしないのか判然としない"マブゼ博士"の気持ち悪さや、正体の判らないボスに
従っていく犯罪者達の哀れな顛末など、視点を切り替えて面白く観れた。
後半は黒幕を追う夜道のチェイスシーンとか大掛かりな工場の炎上シーンのセット
など、製作された年代を考えるとなかなか新鮮な絵作りになっていて撮影レベルも
それなりに高い。
本作が制作された1932年はナチスが選挙で大勝し、第一党となった年である。
ヒトラー一人に大統領と首相の権限が「合法的に」集中されることになった2年後の
1934年に監督のフリッツ・ラングはフランスに亡命し、さらにアメリカに渡る。大戦
終結後の1950年に西ドイツに戻り本作のリメイク「怪人マブゼ博士」(1960)を撮っている。
そして、そのリメイク作がフリッツ・ラングのキャリアの最後となった。多くの人間と
同様にファシズムの勃興と戦争に翻弄された人生といえる。
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