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2012年10月21日 (日)

映画「憂国」

「憂国」

原題名: 憂国
製作: 三島由紀夫
原作: 三島由紀夫
監督: 三島由紀夫
脚本: 三島由紀夫
出演: 三島由紀夫,鶴岡淑子
撮影: 渡辺公夫

時間: 28分
製作年: 1966年/日本

(満足度:☆☆☆☆)(5個で満点)
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昭和初期に起こった二・二六事件に纏わる青年将校の自刃を描く。

 

 昭和十一年(1936年)に起こった近代日本史上における最大規模のクーデター
未遂事件「二・二六事件」には少しばかり興味があり、三島由紀夫という人に
もまた少しばかりの興味がある。

 本作はずっと観たいと思っていた作品の一つである。作家三島由紀夫が製作し、
脚本を書き、監督をし、主演もする。。多分、撮影も自分でやりたかったに違いない。

 内容は、青年将校にも二・二六事件にも、およそ本質的には関係がない一人の
男の「切腹」を淡々と撮った作品であった。

 予想していなかった"軽さ"

に完全に依憑を突かれた。軍服姿は物語の骨子との意味的な繋がり無く、限り
なく『コスプレ』といっても過言ではないものに過ぎなかった。妻との抱擁も、
背後に書かれた至誠の文字も、肝心要の切腹も、、

 タイトルの『憂国』とは一体何なのだろうか。

 憂国という言葉も、切腹も、軍服も、三島由紀夫が現実世界において、
三島の考える上での「精神的な国防意識」を失ったと批判した自衛隊という
機構も、"私"(わたくし)という概念からは他の言葉よりも遥かに"公"に近い
言葉であり、切腹はその最たる言葉であり、行為であるはずだが、見事に裏腹な
画面一杯に展開された"俺"オーラは何事なのだろうか。妻の髪を弄り接吻を
するシーンのエロティシズムの欠如は何事であろうか。三島由紀夫の気持ち
とは関係なく、本作が誰によって作られたのか判らない作品だったとしたら果た
してどうであろうか。

 現実における三島由紀夫(平岡公威)は昭和45年11月25日に自衛隊市ヶ谷駐屯地
にて短い演説をした後に森田必勝と共に割腹自殺を遂げている。そして、この時の
事件において、三島由紀夫は、ミスを幾つか犯していると思われる。そのミスの
多くは作家であれば、日本という国にそれなりに傾倒するならば避けられるはずの
凡ミスと呼べるレベルのものだ。そのミスの連鎖は最後の最後の腹切をする瞬間
まで続く。
 その誤謬の連鎖とボタンの掛け違いのズレの間隔の統一感は、まるで自分の
生涯の幕引きと戦後社会というものを"対"として重ね合わせることを本気で願って
いるのかとさえ思うほどである。

 よく指摘される一つに「最後のバルコニーにおける演説」の際に三島が
マイクを持っていなかった点がある(準備する時間は取れたはず)。

 自衛隊の隊員達の野次とヘリコプターの音に三島の声はかき消された。

とウィキペディアには"結果論"的に書かれているが、果たしてそうなのだろうか。
 マイクの準備を忘れたのではなくて、最初から使用する気などなかったのでは
なかろうか。そして、それは「自分の真意が伝わるはずなどない」とか「拡声器など
使わずに自分の声で伝えたいことがある」ということよりも、最初から野次や報道
の影響により消されることを想定し、寧ろ、かき消されて伝わらないことを望んで
いたからではないだろうか。

 作家開高健は三島邸に招かれた折りに「(小説の)結末は天からの贈り物」と
のたまったところ、「そんな態度は許せない。小説は最後の一行まで決まっていて
書くものだ」と怒られたそうであるが、今も多くの人を魅了し続ける作品を幾つも遺した
優れた作家たる三島が一世一代の、最期の演説の際にマイクが"必要"であった
ことを気付かなかったはずはない。演説は自分の「目的」の為の通過点ではなかっ
たか。「目的」の為には演説は成就し支持を得られてはならず、三島は「敗れなくては」
いけなかった。当然マイクは必要ない。

 本作の切腹シーンもまた、切腹という最終行為に至る軍人であることの意味や
クーデターに対する「思い」はそれぞれが事象としての結びつきを持たないので
(作品の尺が短いことは理由にならない)、自ずと血糊とこぼれるはらわたに塗れ、
もがく命の散華そのものが「唯一の目的」となる。

 

 現実世界の三島の行動と、"この点"において、完全なる整合性を見る。

 

 自分の考えてきた三島像が心地よく壊れ、世間にイメージされているボディビルで
鍛え上げた肉体同様に、鋼のように揺ぎ無く秩序の取れた精神の権化たるMISHIMA
を期待したが、この稀有な才能の持ち主である作家を知る為にこれほど適した作品
もない。

 

「Mishima: A Life In Four Chapters」(1985)は三島由紀夫という「事象」から
"遠すぎて"困った作品であるが、本作は"近すぎて"困った作品である。これ以上は
近寄れない(フォーカスを合わせられない)というのであれば、本作は否応無しに
『傑作』に違いない。

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コメント

全く同意ですね
 
最初に切腹自殺ありき
それ以外考えられないです
 
自分の腹を切る努力と執念はすごいと思いますけど

投稿: 万物創造房店主 | 2012年10月21日 (日) 16時43分

>自分の腹を切る努力と執念はすごい
 
 
荒俣宏の「帝都物語」では三島由紀夫は
戦後編では準主役的に大活躍するのですが
ボディビルをして体を鍛え上げる理由は100%
「割腹する為」だけの理由として描かれていますね。
 
「憂国」が"目的を遂げる"4年前といのは
なかなかリアルな年月だと思います。
 
ここ数年、映像的に随分三島関連を堪能できたので
(「黒蠍」も観ればよかった。。(^^;))
年末から春にかけて本業の小説の方を味わって、
さらに考えてみたいと思います。
 
第一回映画サミットなかなか楽しい思い出です。
2013年5月のサミット参加に向けて小銭貯めます!
どぞよろしくです\(^o^)/

投稿: kuroneko | 2012年10月22日 (月) 01時03分

>100%「割腹する為」だけ
さすが荒俣さん
わかってらっしゃる
 
ますます帝都物語が読みたくなりました
 
「帝都物語」の映画がやっていた頃
すごくいい感じの絵(耽美系)が表紙の文庫を買うか迷って買わなかったんですが
買ったらよかったなー
今のアニメな表紙だと買う気が…
 
>サミット参加に向けて小銭貯めます!
お待ちしてまーす
そんなサミットももう22回です
早いですねー

投稿: 万物創造房店主 | 2012年10月22日 (月) 20時15分

>さすが荒俣さん
 
史実に大胆過ぎる虚構をそれこそ
テンコ盛りさせながら三島へのリスペクトも
行間にもの凄く感じますね。
 

>ますます帝都物語が読みたくなりました
 
文章はかなり読み易いと思うので
文庫本一冊2,3日ペースくらいでいけちゃうのでは。
 
>すごくいい感じの絵(耽美系)が表紙

それは、私が買うよりも一個前のバージョンですね。
文庫じゃなくてハードカバーじゃないですか?
 
私が嵌ってた頃は映画製作真っ最中の頃で、
嶋田久作や勝新太郎など映画のワンシーンから
取った表紙でしたね。いきつけの本屋で
3巻ずつまとめ買いしては読んで、読了したら
また買って、、
史実そのものにはまだ興味が持てなくて
かといってフィクション過ぎるのも受け付けなくて

「帝都物語」はその点、文句無くパーフェクトでしたね。
懐かしい、、(≧∇≦)
夏目漱石、寺田寅彦、幸田露伴、高橋是清
甘粕正彦、石原莞爾、、三島由紀夫、、、
この小説を起点に実際の人に近づいていきましたね。
私は。あんまし進んでなくて大人になってもうた。。(^^;)
 

>そんなサミットももう22回です
早いですねー
 
私が参加予定の来年5月は、上手くいくと
調度30回記念になりますね。
楽しみにしてます!(^o^)

投稿: kuroneko | 2012年10月23日 (火) 00時53分

>文庫じゃなくてハードカバーじゃないですか?
そうだったかも
 
あのver.ほしいなー
 
wikiを見た感じ
カドカワノベルズ版ですね
おー
ジャケは丸尾末広だったんだ
 
けっこう好きな漫画家さんなんですよ
 
今も手に入るかなぁー

投稿: 万物創造房店主 | 2012年10月23日 (火) 17時09分

やっぱりそうです
写真見つけました
http://blogs.yahoo.co.jp/makoro_2019/14871105.html
がんばって買い揃えます

投稿: 万物創造房店主 | 2012年10月23日 (火) 17時45分

>ジャケは丸尾末広だったんだ
 
私は実相寺昭雄監督による豪奢な
映画版「帝都物語」が大好きで
最初から加藤保憲=嶋田久作
で刷り込み完了
でしたが余りに過剰に映画版のイメージに
嵌っていた私を友人がわざわざ本屋さんに
連れて行って
丸尾末広ジャケ版の「帝都物語」の絵を
見せてくれたのをよく覚えています。
 
「お洒落」で色気ありますね。この絵。
いい絵だと思います。
大正・昭和前期のエログロの妖しさも
出ていますしね。  
 
>がんばって買い揃えます
 
ぐわんばって下さい!\(^^)/
5月に行った時には
小説の感想を聞きたいすねー
(^-^)

投稿: kuroneko | 2012年10月24日 (水) 02時02分

>丸尾末広
 
三島由紀夫が主役になる辺りについては
こっちの絵の方が断然フィットですねー
"男色"の危ない感じも余裕で世界観の中に
統合出来ている感じもグーですね。
(^o^)/

投稿: kuroneko | 2012年10月24日 (水) 02時16分

>>がんばって買い揃えます
>ぐわんばって下さい!\(^^)/
とりあえずブックオフ二軒ほど行きましたが
ないですね…まったく
 
クロネコさんの映画写真ジャケ文庫版はよくあるんですけど

投稿: 万物創造房店主 | 2012年10月26日 (金) 20時11分

>ないですね…まったく
 
ブックオフ辺りでは確かに「無さそう」ですね。
丸尾末広版は。
 
>映画写真ジャケ文庫版はよくあるんですけど
 
そうですね。角川春樹の戦略にまんまと嵌った
大量の方々(←お前もな)が今も所有していて放出
が続いていると(^^)
 
「傾向と対策」としては、丸尾末広版は映画製作で
情報が"上手"から広まる前に、自力で辿り着いて
発見された方々が購入しているだろうから、
老舗の古本屋等の方が発見し易い気がしますね。
 
自分も当時、先に書いた丸尾末広版を見せてくれた
友人に「お前はメディアに踊らされているだけだ」(-_-)
って散々言われましたね。"ソイツ"は丸尾末広版の頃に
"発見"して読んでいたので鼻高々でしたね。
 
でも、私は私で高校までイメージを抱き続けて「スーパー8」で
映画版加藤保憲のイメージでコマ撮りと一時停止で
サイキックな数分の映像を撮って一応、周囲には評価
されていたから良かったかな。
 
ぐわんばって下さい!\(^o^)/

投稿: kuroneko | 2012年10月27日 (土) 00時11分

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