映画「エル・トポ」
「エル・トポ」
原題名: EL TOPO
監督: アレハンドロ・ホドロフスキー
脚本: アレハンドロ・ホドロフスキー
音楽: アレハンドロ・ホドロフスキー
出演: アレハンドロ・ホドロフスキー,ブロンティス・ホドロフスキー
時間: 123分 (2時間3分)
製作年: 1970年/アメリカ・メキシコ
(満足度:☆☆☆☆☆)(5個で満点)
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エル・トポ(モグラ)と呼ばれたガンマンの男は、息子と共に旅を続けていた。
行く先々で遭遇する"敵"を斃し、女を抱き、やがて息子とも別れ、遂に最強の
敵を斃したエル・トポは眠りにつく。長い眠りから目覚めた彼に待っていた世界は。。
人智を超えた運命の流転を描く。
ダリの諸作品を連想させる血や死体の扱いと歪んだマテリアル。
マカロニ・ウエスタンと見紛う過剰なまでの残虐描写・人体損壊。
タルコフスキーのような、時間を大河のうねりのように捉える普遍性。
ゴダールのような、延々と織り成し続ける無数の愚かな人の行為の断片。
フェリーニに見る映画的な遊び心、
「2001年宇宙の旅」(1968)を筆頭にしたスタンリー・キュブリックの諸作品、
チャップリン、キートン等のパントマイム映画、ポール・バーホーペン、、
911同時多発テロ、イラク戦争、アフガン戦争、
ファッシズム、共産主義、資本主義、教条主義、原理主義、、、
本編を観ながら、脳内のサブ画面(メイン画面の右下に小さく出るヤツね)では
これらの監督の諸作品や事件・戦争・紛争のキーワードが次々と自動的に
検索・参照されなかなか楽しい精神状況で鑑賞。
前半は奇妙奇天烈なガンマンファイト物で、権力を持つ者と持たざる者の
辛辣な描写が怖かった。力の差に優劣があれば、劣っている者は生きる権利
の何もかもを委ねないと生きていけない。当然のように委ねたところで、やはり
生きてはいけない。力を有する者同士のボスの座を巡っての争いが小気味良い
シュールな映像の羅列で続き、後半は権力構造の中間層に位置する庶民の
"恐るべき正体"を突きつけ、人間というものが実に定型のないモンスターそのもの
であることを暴く。
恐らく監督は人間の諸行の"全て"を描いてしまおうと、『人間』というものの
箱を定義してしまおうと企んで、それは概ね成功していると思う。
可愛いと思う対象が、なぜ「可愛い」と思うのか。
美しいと思う対象が、なぜ「美しい」と思うのか。
それらの同じ対象を見て、なぜ「全くそう思わなくなる」のか。。
人間とは、本質として実に不完全極まりなく、作り出してきた社会も穴ぼこ
だらけでほとんどの人間はそのことから目を背けるどころか欠点を指摘する
人間を糾弾し、命の危険に晒し、そうした上で平気で正義と愛を語る。欺瞞と
自己正当化しか出来ないのだと心底理解することから、やっとほんの少しだけ
まともなことが人間は出来る"かもしれない"と本作は控えめに訴えている。
後半、主人公の命を狙うはずが共同作業をする羽目となるガンマンと主人公を
愛する女の他愛ない労働のシーンが映画に対する愛が感じられて美しくて可笑
しくてとても哀しい。
本作は完全無修正で観るべき作品なのだろうが人間の振りをしている野獣だと
自覚のない危険極まりない人間(某党のチンピラ政治家とか、無能極まる役人、
歴史的経緯・事実を無視して憚らない、理解する能力の無い某集団)にはきっと
モザイクで調度いいのだろう。そもそもそんな人間には残念ながら見せる必要も
ない作品だ。見せたら最後彼等はあらゆる凶器を駆使してこの作品を抹殺しようとし、
この作品を評価する人間を危険視扱いし排除しようとするだろう。
大人しく、黙ってひっそりと完全無修正を観て楽しんで、考えて、また非道極まり
ないこの社会という檻に帰還してオメオメと生きていくしかないのだ。
「お前は、自己発現の為に(俺を)撃つ」
「俺は、自己喪失の為に(お前を)撃つ」
「お前は与えているつもりでも、 本当は奪っているんだ」
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コメント
ホドロフスキーBOXを買いながら
いまだに見てない一本ですね
ホドロフスキーサミットをやろうと思ってるんですが
なかなか機会が…
「サンタサングレ」だけは昔からビデオを持ってたんで
見てるんですけどね
しかしこのBOX
エルトポ、ホーリーマウンテン、ファンドとリス
(ちょうどサンタサングレだけ入っていない)
に加え
幻の短編映画「LA CRAVATE」
や
エルトポ、ホーリーマウンテンのサントラがついているわりに価格控えめで
なかなか優れものっすよー
投稿: 万物創造房店主 | 2012年11月10日 (土) 15時18分
アレハンドロ・ホドロフスキーの作品は
時折やっているようですが、
この作品の密度が凄すぎてちょっと先に
進む気が、、(^^;)
>幻の短編映画「LA CRAVATE」
これはちょっと観たい気がします(^o^)/
いい加減DVDデッキを買わないとなー
投稿: kuroneko | 2012年11月10日 (土) 23時32分
>いい加減DVDデッキを買わないとなー
ちゅーか…
もうブルーレイ買いましょうや…(ーー;)
投稿: 万物創造房店主 | 2012年11月11日 (日) 17時03分
この間物色しに超久しぶりに家電コーナー
覗いてみると、ス○パーだの、○○チューナー
内臓だの、機能多すぎて訳判らず質問する
気にもなれず。。(ーー;)
[再生][停止][一時停止]のボタンだけあって
画質が良ければそれで充分なんですけど(ーー;;)
ブルーレイよりも
VHSデッキの新品が欲しかったりしますが(^^;)
投稿: kuroneko | 2012年11月12日 (月) 01時06分
>機能多すぎて訳判らず
それは録画機能付だからですね
再生専用もありますよ
まぁ録画機能も便利ですけどね
>VHSデッキの新品が欲しかったりしますが(^^;)
新品は難しそうですね
DVDプレーヤーとの合体は現行でも出てるかもしれませんけど…
VHSデッキは中古で二・三千円ぐらいでだいたい買えますし
その中で状態のいい高級機種を見極めて買うのがよいと思います
投稿: 万物創造房店主 | 2012年11月12日 (月) 16時04分
そうすねー
新中古のVHSデッキと
画質重視のDVDデッキを買いたいと
思います。
デフレの今だからこそ、買い!
(^0^)/
投稿: kuroneko | 2012年11月12日 (月) 23時58分
>画質重視のDVDデッキ
オススメは僕の使ってるDVDプレーヤーの後継機の海外版
Pioneer DV-420V-K
参考↓
http://item.rakuten.co.jp/coco109/pioneer420/
これだとリージョンフリーなので
どこの国のDVDでも再生できます
しかも
解像度をアップしてくれる機能付き
(でかいテレビ持ってないと意味ないですけど)
ちなみに僕のヤツは
DV-410Vで
自分でシステムを書き換えてリージョンフリーにしました
投稿: 万物創造房店主 | 2012年11月13日 (火) 20時15分
>Pioneer DV-420V-K
コレいいすねー!安い!
たまにいく古本屋が
リージョン1のDVDを1000円以下で
結構な量売っているので、
これ買えば観れるな。。
価格が手頃過ぎるので悩む必要もないすねー
ほぼけてーい( ̄∇ ̄)
情報ありがとうございます(^o^)/
投稿: kuroneko | 2012年11月14日 (水) 01時26分
>コレいいすねー!安い!
とは言っても
ブルーレイプレーヤー(再生専用)なら買える値段なので
海外製のDVDを観るかどうかが判断のポイントですね
ブルーレイの場合
日本もアメリカも共通のリージョンAなので
普通の日本製BRプレーヤーでも
アメリカ版のBRが再生できます
>リージョン1のDVDを1000円以下で結構な量売っている
これはなかなかいい状況ですね
いいタイトルがあるようなら
やはりリージョンフリーDVDプレーヤーですかねー
投稿: 万物創造房店主 | 2012年11月14日 (水) 15時50分
>これはなかなかいい状況ですね
そうすね。
今までは買っても観れないのでスルーしていましたが
売っている方は内容に無頓着に値札を付けているようなので
掘り出し物があるかもしれません( ̄ー+ ̄)
っつっても海外DVDは何がレアなのかまだまだ研鑽は
これからですが(^^;)
>やはりリージョンフリーDVDプレーヤーですかねー
そうですね。ブルーレイには全然固執していないので
とりあえず観たい作品、観なくてはならねー作品は
幾らでもあるのでリージョンフリーの世界に向かいたい
と思います。( ̄0 ̄)ノ
投稿: kuroneko | 2012年11月15日 (木) 01時22分
>海外DVDは何が
だいたい3パターンですね
○日本未発売・廃盤の日本映画、日本未公開・未発売の海外映画(ほとんど字幕なし)
○日本で発売されていても、日本版より安く買えたり、特典が多かったり、画質にこだわってあったりする
○日本だと修正されていたりカットされていたりするものが収録されている
>レアなのか
僕が買い逃したて非常に後悔してるものとして
原田芳雄主演の
「無宿人御子神の丈吉」三部作がありますね
これは観たかった
そういえば
「愛のコリーダ」なんかは海外版はくだらない修正がないので
これも見つけたら買いかも
投稿: 万物創造房店主 | 2012年11月15日 (木) 18時59分
海外DVDだから海外物を、、
ではなく国内で販売されていない邦画を
狙っていくのが基本ですね。
なるほどー(^o^)
>「無宿人御子神の丈吉」三部作
これは初めて聞く作品名ですね( ̄0 ̄)
監督は池広一夫ですか。
池広一夫の作品では「雁」(1966)が
ちょっと興味ありますね。1953年度版で
高峰秀子と芥川比呂氏が演じていた役を
若尾文子と山本學のコンビでやっているが
良さげですね。
「愛のコリーダ」は拙ブログでは常に
アクセス上位なので皆さん観たがって
いるようですね。無修正版をスクリーンで
観れて自分はラッキー(^^;)
投稿: kuroneko | 2012年11月16日 (金) 01時03分