映画「妥協せざる人々」
「妥協せざる人々」
原題名: Nicht versöhnt oder Es hilft nur Gewalt, wo Gewalt herrscht
監督: ストローブ=ユイレ
撮影: ヴァンデリン・ザハトラー
時間: 55分
製作年: 1964-65年/西ドイツ
(満足度:☆☆☆☆+)(5個で満点)
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ナチスに息子を殺された夫婦、戦前も戦後も時代に上手く迎合して生きる男、
その男を心底から軽蔑する男、、時間の異なる世界を同時進行で見せていく。
原作はハインリヒ・ベルの「九時半の玉突き」とのこと。
食事のシーンが短いながらも素晴らしい。「女」と「食事」が上手く描ければ
小説も映画も成功と言えるのは昔からの周知の事実であるが、本作では
登場人物達の細かい立ち振る舞いに品があって「演技の基本」が出来ていて、
それだけで観ていて嬉しくなった。
ナチスに抵抗して死んでいった者、抵抗したが生き残れた者、抵抗せずに
生き残った者、抵抗したが転向して生き残った者、仕方なく迎合した者、積極的に
迎合した者、積極的に迎合し且つその異常なまでの暴力的権力を心底楽しんで
戦後も恥じることなく生きる者、、それらの玉虫色の人々全てが一緒くたになっ
て"市民"としてリセットされてしまったことの罪を本作は、それぞれの立場の
人間達を虚飾なく描くことで静かに、且つ確かな"怒り"をこめて描く。
戦後の世界から"神"の視点で好き勝手にお好みのままにディレクターズカット
して断罪するというナチスの犯した罪と同等かあるいはそれ以上かもしれない
罪を犯すことなく、それぞれの言い分をそのままに描くことにより、生まれ出でて
陥った立場の違いによるに過ぎない、それゆえ結果の惨禍が余りに大きすぎることの
近代社会の歪を短い作品の中に込めることに成功している。
人間を描く娯楽作品としても、ファシズムの台頭という歴史のある断片を除き観る
上でも一級品の作品。ファシズムも共産主義も資本主義も戦争も貧困も、全ては
人間という集団が恐らくは良かれと思って引き起こす哀しくて滑稽な「祭り」に過ぎない。
本作の数百倍・数千倍の予算を投じられて年がら年中飽きることなく判押し
同然に制作され続ける反ナチ映画のなんたる空虚と罪深さと無意味さであろう
ことか!またじっくりと瞬きもせずに観たい。
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