映画「風の中の牝雞」
「風の中の牝雞」
監督: 小津安二郎
脚本: 斎藤良輔,小津安二郎
撮影: 厚田雄春
音楽: 伊藤宣二
美術: 浜田辰雄
編集: 浜村義康
衣裳: 斎藤耐三
出演: 佐野周二,田中絹代,三宅邦子,笠智衆,坂本武,高松栄子
時間: 84分 (1時間24分)
製作年: 1948年/日本 松竹大船
(満足度:☆☆☆☆+)(5個で満点)
--------------------------------------------------
夫(佐野周二)の復員を待ちわびる妻(田中絹代)は生活に困窮する余りに
ある行動に出る。復員して来た夫は妻の言動の曖昧さから次第に不信感を
募らせ、ある日妻を問い詰め始める。。
非常に地味なテーマと小さな舞台でありながら、描かれている世界、
夫婦であり、戦場を見てきた夫と銃後の支えを続けた妻であり、男と女。
それぞれの"宇宙"とも呼ぶべき空間のぶつかりを描けているのは流石
というしかない。
戦争の傷跡を残す東京の風景、バラック、長屋、木造アパート、隅田川、
などが強く印象に残る。撮影を手掛けた厚田雄春は小津作品を始め邦画史に
輝く名作を多数手掛けていて、どの作品にもすぐに思い出せるシーンがある。
「麦秋」(1951)、「東京物語」(1953)、「早春」(1956)、「東京暮色」(1957)、
「秋刀魚の味」(1962)、、間違いなくトップランナーの一人だ。
佐野周二は五所平之助の代表作にして傑作「大阪の宿」(1954)では人々の
堕落していく様を嘆きつつもどこか優しく見守るサラリーマンを好演しているが
本作では復員兵としての戸惑いと苛立ちを隠せない全く違う人間像を演じていて
うっかり見ていると別人のよう。どちらの作品も内面から湧き上がってくる感情を
表現するという演技の"形"が出来ているように思う。
戦場を生きて復員した夫の苛立ち、変わってしまった日本。銃後の守りを
してきた妻の「限界」。夫が生き、その眼で見てきた『世界』と妻が同様に見て、
考える"それ"はなにもかも、どこまでも、細部にわたって「違うのだ」という
ある種の冷徹な視点が溝口っぽいわけであるが、ラストにおける二人の
夫婦としての法制度的・手続き的な意味ではなく、精神的に"再生"する様は
小津的である。
それぞれの宇宙はぶつかり合い、交じり合い、膨張し、やがては離れていく。
そして、一度離れていけば距離が縮まることは最早無い。小津の描く宇宙。
--------------------------------------------------
映画感想一覧 [年代] >>
映画感想一覧 [スタッフ] >>
| 固定リンク
「映画」カテゴリの記事
- 映画と賞を取ることについて関係性における独り言(2021.05.02)
- 映画「ジョーカー」(2020.12.09)
- 映画「魂のゆくえ」(2020.07.24)
- 映画「愛の渇き」(2020.05.01)
- 特撮映画における或る命題について(2020.04.29)
最近のコメント