映画「デルス・ウザーラ」
「デルス・ウザーラ」
原題名: Дерсу Узала
監督: 黒澤明
脚本: 黒澤明,ユーリー・ナギービン
撮影: 中井朝一,ユーリー・ガントマン,フョードル・ドブロヌラーボフ
美術: ユーリー・ラクシア
音楽: イサーク・シュワルツ
出演: ユーリー・サローミン,マキシム・ムンズク,スベトラーナ・ダニエル・チェンコ
時間: 141分 (2時間21分)
製作年: 1975年/ソビエト・日本
(満足度:☆☆☆☆+)(5個で満点)
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20世紀初頭のロシアの大地を舞台に、探検家アルセーニエフと、猟師の
デルス・ウザーラの心の交流を描く。
オープニングで、黒澤が何を描きたかったのか40%が推測でき、主人公の一人
デルス・ウザーラの登場でもう40%が理解でき、観終わった後に残りの10%が理解
できた気がした。
勿論、「大地」と「自力で格闘する人間」を描きたかったのであり、デルスを演じる
マキシム・ムンズクの猟師を完璧に体現している風貌と演技、探検家のアルセーニエフ
を演じるユーリー・サローミンの偏見を持たずに物事の真実を見極めようとする
謙虚な姿勢、人間の征服を拒み、その命を奪おうとするかのような荒々しい大地の
四季折々の姿が澱みなく描かれ「目論見」は成功していると思う。
妻や子供を遥か昔に失い、自分の年齢も定かではないデルスの自然に対応する
知恵と行動力にアルセーニエフだけでなく、その部下達もデルスに次第に敬意を払う
ようになり、探検家一行がチームとして一体化していく過程は観ていてとても清清しく、
監督が日本人で日本側のスタッフが黒澤と撮影の中井朝一を含めたった5人だった(!)
ということは作品全体の完成度と演出の流れの自然さを考えると驚かざるを得ない。
後半は、肉体と精神の老いを悟り大自然の中で生きることを諦めたデルスとアルセー
ニエフ一家の暮らしを描くが中盤までの美しい自然の中で活き活きとしたデルスと
屈強な男達の活躍を思うとデルスの街という"監獄"の中での沈痛な叫びそのままに
窮屈感が画面を覆う。デルスが訴える自然と人間の共存の意味と、物語の結末には
当然であるが日本人的な思考が入るが、ロシア人にはどの程度受け入れられ、拒絶
された点があるとすればどこなのか、ネットや文献を調べればそれなりに判ることで
あるが実際に会って聞いてみたいものである。
最後はもう少し長くしてアルセーニエフの総括的なものがあっても良かったように思う。
しかし、監督が日本人であるがゆえに、過程の描写においては国境を越えて異論は
それほどなくても自然というものを『定義』して主人公の一人に台詞として語らせてしまう
のはとても難しいことであり、語らせてしまった後に予想できる問題の解決の困難さを
思えば、作品に描かれている結末で何ら問題ないのかもしれない。
黒澤明監督作品では「羅生門」(1950)、「生きる」(1952)、「どん底」(1957)辺りが
突出して好きなのであるが(「七人の侍」(1954)は別枠扱いということで)、本作もその
一つに長い間セレクトされるだろうと思う。
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