« 時計が売れる理由 | トップページ | 情熱の容 »

2013年4月 7日 (日)

映画「宗方姉妹」

「宗方姉妹」

原題名: 宗方姉妹
監督: 小津安二郎
脚本: 野田高梧,小津安二郎
撮影: 小原譲治
美術: 下河原友雄
音楽: 斎藤一郎
出演: 田中絹代,高峰秀子,山村聡,上原謙,笠智衆,高杉早苗

時間: 112分 (1時間52分) [モノクロ・スタンダード]
製作年: 1950年/日本 新東宝

(満足度:☆☆☆☆☆)(5個で満点)
---------------------------------------------------------------
人生における晩秋を迎えた父とその姉妹、そして姉の夫。姉節子の夫三村は失職中
であるがプライドの高さが障壁となりまともに求職をしようとしない。節子はそんな
夫に不平・不満を一切こぼさずに諸事を切り盛りし続ける。三村は常に冷静沈着な
妻の姿に自身の情けなさから怒りを覚え節子に日々辛く当る。妹の満里子は、姉
夫婦が憎しみ合いながらも夫婦生活を維持し続けることが全く理解できない。三村
は複雑な大人の内面が理解できない満里子にも挑発的な態度を取るようになる。。

 

 山村聡の山村聡による山村聡の為の作品と言っても過言ではない問題作。

・姉妹の前に幾度となく立ち塞がる魔王として
・子猫を可愛がるシーンの深い心の闇を体現したシーン
・ラストの上原謙との西部劇さながらの"一騎打ち"

 高峰秀子は女優としての安定感と貫禄がすでに十分過ぎて、役柄における
大人の入り口に到達したばかりの女性の役柄は正直観ていて厳しいものがある。
しかし、高峰秀子には物心ついた時から映画製作の現場で育ったという特異性
からか"父性"という物に対してどんな作品でもある種特異なオーラを放っており
本作ではそれがきちんと役柄として発するオーラとして正しく"放射"されている。
小津は勿論、そんな高峰を理解しぬいての起用であろう。小津(OZU)だから偉い
というわけではなくて「映画監督」というものはそんなことは見抜けて当たり前の
話しである。 

 撮影監督の小原譲治は、黒澤明「一番美しく」(1944)、溝口健二「雪夫人絵図」
(1950)、佐分利信「叛乱」(1954)などの秀作・名作を手掛けており、どの作品にも
すぐに思い出せる印象深いシーンがある。

 美術監督の下河原友雄は五所平之助「煙突の見える場所」(1953)、小津安二郎
「浮草」(1959)・「小早川家の秋」(1961)、市川崑「鍵」(1959)、増村保造「大悪党」(1968)
など、こちらも幾つかのシーンがそのまま作品像として明確に浮かび上がってくる。

 クライマックスにおける"雨"は邦画史に残る白眉であり『完璧』の名に相応しい。
このシーンを見ずして死ぬわけにはいくまいて。かくして、「小津の宇宙」は本作に
おいて完成を見る。それぞれの宇宙は膨張し、衝突し、収縮をして、やがて消える。
大カタストロフィを、見よ。

---------------------------------------------------------------
映画感想一覧>>

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

|

« 時計が売れる理由 | トップページ | 情熱の容 »

映画」カテゴリの記事

コメント

この記事へのコメントは終了しました。