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2013年6月16日 (日)

東京漂流某日(五)

東京で大した野望も無くどうってことなく生きる
或る男の漂流記・・・

chapter5:  フリーター戦記(5)  そして、男は立ち上がる

 

春も過ぎ、初夏を迎えつつあった日曜日の昼下がり、黒猫は
大学時代のバイク仲間の一人鴇男を訪ねた。鴇男は黒猫と
同い年でバイク仲間であり、たまにバスケをする仲でもあった。

「で、どうなんだよウェイターのアルバイトの方は」
鴇男は寝そべり面倒くさそうにキーボードを手馴れた手つき
で操りながら黒猫に聞いた。

「まあまあボチボチだね。。。」
鴇男の手の動きと連動して青い画面に流れていく意味不明な
横文字と数字の羅列を眺めながら黒猫は力なく答えた。

「何、ソレ?」
黒猫はモニター画面に澱みなく流れていく文字に興味をそそられて
思わず聞いた。

「コレか?"D言語"って言うんだよ」
鴇男はやはり面倒くさそうに答える。こういう時の彼は、悪気は特になく、別段
内心で機嫌が悪いということもなく、楽しいことも、苦しいことも、バイクでツーリングに
行く時ですらも、諸事において面倒くさそうにやるのが鴇男の流儀である。
彼は学生時代からの公約通り、コンピューターの世界に身を投じていた。

「へ~、何?D言語って?」
黒猫は訊ねるより仕方がない。

「言っても判らないと思うけど、コンピューター言語という物の
一種だよ。ごく大雑把に言うと、世の中のほとんどのコンピューターは
コイツのお陰で動いていると言える」

鴇男は手早く"何か"を打ち込んで画面を消した。一定量の作業が
終わったらしい。と、思うとすぐにどこかに電話をかけた。

「もしもし。朱鷺ですけども。どうもこんちわっす。ハイ。終りました。
ハイ。今、送信したところです。よろしくお願いします。あーハハハ。
ハイ。ゴルフまた是非やりましょう」

パソコンを持っていない黒猫には何が何だか判らない。
しかし、どこかで、、

「終わったの?」

「そう、今日はもう終り。待たせて悪かったね」

「面白そうだね。仕事の内容も会社の付き合いの方も」
鴇男の部屋には"それらしい"関係の本が詰まれていた。
部屋の雰囲気も実に"それらしい"。"それらしい"のが無色(無職)透明
を自認する日々が続く黒猫には羨ましかった。

「まあ、面白くないこともないけど仕事だしね。一応残業手当は付くけど」
鴇男は菓子をパリパリとやり始め黒猫にも勧めた。

「よく、何も見ないで出来るね」
黒猫は、鴇男の鮮やかなブラインドタッチを思わず褒めた。
同時に何が、どうなって"終り"になったのか当然であるが判らない
黒猫は関心しきりだった。

「まあね。ガキの頃からやっとるしな」
鴇男が小学生の頃からコンピューターをいじっていたらしいことは
黒猫はかねてから聞いていた。黒猫の世代で少年時代から家庭用ゲーム機
ならともかく、コンピューターをいじっている人間はそこそこ珍しいと言える。

 

それにしても、、自分は見たことがある。あの横文字の羅列を。
俺は知っているゾ。。黒猫に遥か彼方の過去の記憶が甦って来た。

 

俺も、、ヤル
黒猫は呟いた。

「何?今、ナンツッタ?
鴇男は元来小さな目を精一杯大きく見開いて聞いた。

俺もヤルよ。お前のやっているヤツを」
今度は鴇男の方が何が何だか判らない思いをする番だった。

「何をヤルんだよ?これからやるバスケの事か?」
鴇男は黒猫の来訪目的のストリートバスケのことかと思い、聞いた。

「いや、その、、青い画面の文字を、、俺もヤル!

「えー、無理だろ。第一、パソコン持ってないだろお前?
鴇男はまさかと思ったが黒猫が何を言っているのかだけは理解した。

うん。持っていない」
黒猫は不敵な笑みを浮かべて答えた。

「っつーかさ、そもそもパソコン出来ないだろ、お前??
かねてより冷静沈着を自認する鴇男も流石に顔色を変えた。

「うん。出来ない
黒猫は正直に答えた。

意味わからん。パソコン持ってなくて、パソコン出来なくて、
どうやってコンピューター言語やるんだよ??
学生時代から多少は独学でやって知っていて、かじってから入社した
俺でも覚えることが膨大で結構キツイんだぜ
兼ねてより黒猫のやや衝動的とも思える行動にいつも付き合いながらも
時折批判的だった鴇男の表情が曇った。 

「いや、きっと出来るんだよ鴇男!俺はソレと出会っているんだ。
お前が小学生の時にコンピューターをいじっていたのと同じ頃に、
俺はソイツを見て、知っているんだ!!大丈夫
鴇男は流石についていけずに沈黙した。

「ゴメン、バスケはまた今度にしよう。今日は帰るわ」
黒猫は鴇男の部屋を退出しようとする。

「おう。まあ冷静に考えてみろや。"道"は他に幾らでもあると思うぞ」
冷静さを取り戻した鴇男はまた菓子をパリパリやりながら見送った。

しかし、、黒猫の言っている"意味"が鴇男にはどうしても判らなかった。
「、、、出会っているって、何と?、、、知っているって、何を??
学生時代から良く判らない奴ではあったが。。

「、、、俺はヤル」
黒猫は階段を勢いよく降りながらもう一度呟いた。

 
 
 
 
  
  
  
  
  
 
 
 
 
 
 
 

<=== Back                      To be continued ===>

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

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東京漂流某日」カテゴリの記事

コメント

まさかクロネコさんがそこそこの年齢までパソコン触ったことなかったとは…ビックリ!
 
僕は小学校ぐらいから触ってた方の人なんですけど
早々とプログラミングは断念しました
 
ウインドウズの時代になっても
ずーっとMSXで
MSXに無理矢理HD付けて
MSXでネットやって
大学の卒論もMSXで打ってたんです
 
うーむアホなことやってました

投稿: 万物創造房店主 | 2013年6月21日 (金) 22時22分

>パソコン触ったことなかったとは…
 
そうすねー
自分は書いての通り↑
生きてく糧としてのプログラマー(SE)の開始と
パソコンそのものの開始が同時でした(^^;)
鴇男君のモデルの友人には
「あれほど無謀な行為は、後にも先にも
見たことがない」
と未だに会う度に必ず言われます(^^;)ゞ
 
そのくせ、書いての通り↑
小学生時代になぜか家に転がっていた
プログラミングの本を勝手に面白がって
読み耽っていた記憶が鴇男君のお陰で
覚醒して今があるのも実話だったりします
( ̄∀ ̄)Y
 
>大学の卒論もMSXで打ってたんです
 
自分は大学の卒論は『手書き』でした。
学生時代はワープロも全く打てなかったので(^^;)
こっちはこっちでゼミの先生に
「今時さぁ、卒論の手書きなんて"無謀"もいいとこだよ
クロネコ君。読むのも、添削すんのも面倒くさいし(-""-;)」
と嫌がられました。でも、手書きが珍しくて目立ったのか、
労力を加点されたせいなのか、賞を貰いました。
(書くの3ヵ月近くかかったけど)
( ̄∀ ̄;)Y
 
MSXは私自身の身近にはなかったけど、
嵌っている友人は結構いたみたいですね。
昨日、地元の旧友と帝都で飲んだ時に、
結構熱く語っていました。
  
>アホなことやってました
 
いやいや、若さ=馬鹿さで上等!o( ̄^ ̄)oですよ
アホなことは情熱と体力が無いと出来ないすから。
自分も書いての通り↑
無謀&無茶なことをしてきて楽しかったなー
としみじみ思います(^^)

投稿: kuroneko | 2013年6月22日 (土) 03時31分

>MSXに無理矢理HD付けて
MSXでネットやって
大学の卒論もMSXで打ってたんです
 
検索すると熱い且つ面白そうな記事が
沢山ヒットしますね。
確か時任三郎もかつて嵌っていた言っていました。
傑作PCだったようですね。
 
現物残ってます?
ファミコンの音源を意図的に使って
作曲するような感じで
今、敢えて旧システムを駆使することで
何かアートっぽいことが出来るかもしれませんね。

投稿: kuroneko | 2013年6月22日 (土) 13時32分

>自分は大学の卒論は『手書き』でした。
よく考えたら
レジメとか調査用紙とかはMSXでしたけど
提出した卒論自体は手書きでした
たぶん、手書きしかダメだったんだと思います
 
>現物残ってます?
残ってますよ
 
>ファミコンの音源を意図的に使って作曲するような感じで
PSG音源とFM音源搭載で
シンセソフトもありますので
昔~な音で作れますよ
 
当時、作曲したものを簡単に録音してバンドメンバーに渡すデモテにはこれを使ってました
ピコピコいってました
 
僕も数年前久々にファミコン音で作ってみようと思ったときがあったんですけど
でも、すでにメジャーに
わざとファミコン音で音楽作ってる人いたんですよね
名前忘れましたけど
二番煎じならもういいやと思って
結局、やめました

投稿: 万物創造房店主 | 2013年6月24日 (月) 17時55分

スゲー
ファミコン実機音源をMIDIにつないで演奏してるバンドがありました
http://youtu.be/NYMCcarY3rk

投稿: 万物創造房店主 | 2013年6月24日 (月) 18時07分

>たぶん、手書きしかダメだったんだと思います
 
自分の時はワープロが基本で
パソコンがそれに猛追、
手書きはパソコンもワープロも"出来ない人"か
何らかの事情(例:ビンボ=私)で所有していない人
という扱いでした。
 
>わざとファミコン音で音楽作ってる人いたんですよね
名前忘れましたけど
 
私が聞いたのも同じ人ですね。きっと。
いい所に目つけんなーでも、絶対に誰かが
思いついていずれやったよね
って思いました。
今では無数の追随者がいるのでしょうね。
 
>ファミコン実機音源をMIDIにつないで演奏してるバンド
 
第何百目かの追随者ですかね。
音そのものよりも、鑑賞者の「思い出」にダイレクトアクセス
してますよね(^^)
そういう意味ではインセプションとか呼んだ方が
いいのかもしれない。
これから音も映像も「インセプション方式」がますます
増えそうすね。
「ALWAYS 三丁目の夕陽」
とかもその系といえるかも。

投稿: kuroneko | 2013年6月25日 (火) 02時17分

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