過ぎ去りし頃、懐かしき君
「。。。判りません。」
恵美は、そう答えた。
「そうかもしれないね。」
Kは、コーヒーを一口飲み、静かに頷いた。
「。。。なんでそんな風に考えるの?」
恵美は、Kの顔をしみじみと見つめて問いただした。
「なんでか、、、難しい質問だけど、"そう考えるしかないから"
今はそうとしか答えられない。ずるい答えだね、ゴメン」
Kは、淡々と答えた。
「だって、あんなに楽しそうにやっていたじゃないですか。
皆、KさんとIさんは凄いねっていつも言っていたのに」
恵美は到底納得いかない様子でカフェオレに手を伸ばした。
「"楽しんでいた"か。確かにね。楽しんでいたよ。恵美も
頑張っていたよね。本当にあの頃は楽しかった。」
Kは窓から見える店の外の景色に目をやった。しかし、その先にKが
見ているのは恵美やIと毎日のようにつるんでいた"当時"の光景だ。
「じゃあ、何で?どうして?」
恵美はカップを両手に持ったまま憮然とした表示でKを見ている。
Kは昔から恵美を妹のように思い接してきた。今日の恵美の素振りを見て、
Kは改めてそう感じていた。
「。。。この話はもう止めないか?僕の答えは変わらないし、
上手く説明も出来る自信も"今"はない。君を退屈させたくないし、
ましてや不愉快になんかさせたくなんかない。せっかく久しぶりに
会ったのに」
心から恵美を気遣ってのKの提案だった。このまま同じ話題の会話を
続ければ、お互い不愉快な気分のままで次はいつになるか判らない再会を
待たなくてはならない。空中分解で終わる会話はエゴイストのKは慣れっこ
になっていて平気だったが、そんな思いを恵美に味あわせるわけにはいかない。
「判らない。Kさんの言っていること。。私、判らない」
恵美はほとんど空になった自分のカップの底を力無く見詰めながら同じ言葉を
何度も呟いた。
「出ようか。」
Kは架けてあった恵美のマフラーをそっと渡した。恵美は目線を下に向けた
まま受け取った。
「雪になるかもしれないね。今夜は。」
Kは独り言のように静かに呟いた。
再会を祝して摂った夕食の間もKとの会話はありきたりな巷のトレンドの
話題に終始し、恵美は、想定していた時刻よりも早く帰路に着いた。
恵美にとって予想を裏切る展開だった。話しの盛り上がり次第では
都内近郊で暮らしを営んでいるお互いの当時を知る共通の知人を突然の
振りをして呼び出してKを驚かせ且つ悦ばせる手はずだった。知人にも
その可能性を数日前から打診し、了承済みだった。
雪がチラつきだした。恵美は自宅への歩みを急いだ。
恵美へのKの気遣いは見事に失敗していた。差し障りの無い話題を周到に
選んで会話を続けるKに恵美は失望し、傷ついていた。自分のプランが頓挫した
恵美は、長らく尊敬の念を抱いていきたKに対して怒りすら感じた。
メールの着信音が鳴った。雪の舞う人気の無い路地で、ことさらに大きく、まるで
響くようにも感じた。恵美は歩く速度を落とさずに携帯を取り出した。
"今日は、連絡なかったね。上手くいかなかった?"
突然の呼び出しの可能性に快く待機してくれていた友人からだった。
恵美は携帯を上着のポケットに深く閉まった。返事をすぐに出す気には
到底なれなかった。
「Kさん、意味わかんない」
近くまた会う約束をして別れる時のKの妙に晴れやかな笑顔を思い出し
恵美はそう呟いた。
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コメント
うーむ
このお話自体が
「クロネコさん、意味わかんない」(ノ;´Д`)ノ
投稿: 万物創造房店主 | 2013年12月27日 (金) 20時57分
Don't think.FEEL!! ( ̄Д ̄)b
投稿: kuroneko | 2013年12月28日 (土) 02時36分