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2014年3月24日 (月)

映画「英国王のスピーチ」

「英国王のスピーチ」
THE KING'S SPEECH


監督: トム・フーパー
脚本: デヴィッド・サイドラー
撮影: ダニー・コーエン
音楽: アレクサンドル・デプラ
編集: タリク・アンウォー
出演: コリン・ファース,ジェフリー・ラッシュ,ヘレナ・ボナム=カーター

時間: 118分 (1時間58分)
製作年: 2010年/イギリス・オーストラリア

(満足度:☆☆☆☆+)(5個で満点)
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幼少期から悩まされている吃音症の為にスピーチが大の苦手で、その事から
裏方の仕事として海軍を選んだアルバート(コリン・ファース)と彼の妻エリザベス
(ヘレナ・ボナム=カーター)は、伝を頼ってライオネル・ローグ(ジェフリー・ラッシュ)
という言語障害を専門に扱う男に辿り着く。将来は王になるかもしれないという
相手に何ら遠慮気兼ねなく接するライオネルに最初は反感を持つアルバートだった
が、次第に信頼を置くようになる。治療が効果を現しはじめた時、王位を継いだ
ばかりの兄エドワード8世(ガイ・ピアース)は許されぬ恋に落ちたことで退位を迫られ
、ヨーロッパ大陸にはファシズムが急速に台頭し始めていた。第二次大戦勃発前夜
という激動の時代に数奇な運命によりイギリス国王、アイルランド国王、インド皇帝
の座に就いた"ジョージ6世"の歩んだ足跡に基づいた「物語」。

 

 たとえイギリスの王族という"セレブな境遇"であったとしても、"限定された
枠の中の世界しか知らない"という意味では必ずしも『幸せ』とは限らない。
どんなに相対的にあるいは絶対的に恵まれた環境で生まれたとしても、人には
悩みがあり心配事がある。

 冷静に考えれば当たり前の事だが私達庶民は自分達よりも少しでも良い暮らしを
していると思える人間達をやっかみ嫉妬して生きている。そして、当たり前のことが
描けている映画がこれほどまでにエキサイティングで息着く間もないほどに面白い
のかということを再確認される作品でもあった。

 監督のトム・フーパーは映画監督としては若くて、本作制作当時は30代後半である。
その若い監督が実力の確かな人生の先輩達である豪華な俳優陣を見事に演出して、
王の候補の一人といえども一個の人間である個人的な悩みに苛まれる中盤までの
展開から、世界の何分の一かを統治する「王」にならざるを得ない世界の人々の
運命と直結する超巨大システムの主要な"幹"の一つとなる終盤までの円滑な展開の
コントロールは見事だった。

 イギリスといえばロンドン、ロンドンと言えば"霧"ということで本作では未曾有の
国難の中で国王になるかもしれないというマクロな悩みと吃音症というパーソナルな
悩みというギャップ地獄に悶絶する主人公の陰鬱な気分を霧で表現していたように
思う。因みにこの霧の原因は産業革命以来の急速な工業化に起因しているとか。

 アメリカのジャーナリストであるクリストファー・ヒッチェンズは、本作の脚本とそれを
手掛けたデヴィッド・サイドラーを主に以下の2点について非難している。
[『英国王のスピーチ』史実に異議あり!
http://www.newsweekjapan.jp/stories/movie/2011/02/post-1988.php
http://www.newsweekjapan.jp/stories/movie/2011/02/post-1991.php
]

   1)  ジョージ6世は、ナチス・ドイツの増長を招いたとされるヒトラーとの融和政策を
結んで帰国した時の首相ネヴィル・チェンバレンを王族にしか与えられない権限である
バッキンガム宮殿のバルコニーに招き国民に歓迎させたが、劇中では一貫して反ナチス
であるかのように描かれている

   2) ウィンストン・チャーチルはジョージ6世を最初から支持しているかのように劇中
では描かれているが史実は逆で、チャーチルは兄エドワード8世が王位に就くように
積極的に動いていた。

 1) についてはウィキペディアの「ジョージ6世」の項によれば、当時の英国王室は
「首相に協力しなくてはいけない立場にあった」としつつも、歴史家ジョン・グリッグは
1) とその後世への影響について
「ここ数世紀のイギリス国王の中で、もっとも憲法に違反している」としていると記述
されていて、かつチェンバレンの融和政策そのものについても近年ではドイツに有利に
働いたことは確実であるが同時にイギリス自身にも戦争準備の猶予を与えたとして
再評価されている向きもあり歴史と時の権力者・為政者達の関係の難しさ・複雑さ・
評価の難しさを物語っている。

 2) についてはこういった歴史的な動きを主要テーマとして描かれた作品には
多かれ少なかれあるように思われる。劇中ではジョージ6世とチャーチルは反ヒトラー・
反ナチスとして固く結束した一枚岩のように極めて劇的に描かれているが、史実では
ジョージ6世が首相に推したのはチャーチルではなく、チェンバレンの融和政策を支持
し、当時のナチス高官にも受けが良かったハリファックス子爵エドワード・ウッドだった。

 『映画』とはアウトプット(結果を描いている)物として観てしまうのは自由と言えば
自由であるが、危険でもある。所詮は観客を喜ばせることを最優先にされたエンター
ティメントであってインプット(発端)程度に楽しんで、本当に何が起こっていたのかは
別問題であり、往々にして物語とは逆かもしれないくらいのスタンスで楽しむのが
良いのだろう。そういう意味で本作は映画の見方を教えてくれる作品の一つでもあり
ある種、プロパガンダ的側面を持つ作品でもある。

 最終的には、映画そのものだけでなく、語られている周辺まで含めて、
"そこ"に『一体何を観るか』については昔も今も観客に委ねられている
のではなかろうか。

 本作は第83回アカデミー賞において、作品賞、監督賞、主演男優賞、脚本賞を
受賞した。

 

[ジョージ6世]
================================================================
国王ジョージ5世は、長男の王太子エドワードの言動に心を痛めており「長男
(エドワード)が結婚しないことと、バーティ(アルバート)とリズベット(エリザベス
2世)、そしてイギリス王位に何事も起こらないことを神に祈る」と漏らしていたと
いわれている。
(略)
エドワード8世の退位に伴って、推定王位継承者だったアルバートがイギリス
国王に即位した。しかしながらアルバートにはまったくその気がなく、国王の座は
望んでもいない押し付けられたものだった。即位が正式に決まった際には、
ルイス・マウントバッテンに対して「これは酷いよ。私は何の準備も、何の勉強も
してこなかった。子供の頃から国王になるように教育を受けていたのはデイヴィッド
(エドワード8世)の方なんだから。国事に関する書類なんかこれまで一度も見た
ことなんか無いんだよ。そもそも、私は一介の海軍士官に過ぎないんだ。海軍
将校としての仕事以外は、これまで何もやったことの無い人間なんだよ」と愚痴
をこぼしたという。
================================================================
(ウィキペディアより)

 

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コメント

>霧の原因は産業革命以来の急速な工業化に起因しているとか
 
今の北京の空気が真っ白なのと同じですね
中国名所「霧の北京」
 
>1)2)
ドイツが負けたから
「私は当時からナチスを否定していた」という人がいっぱいー
ドイツが勝っていたら
「私はナチスを応援していた」という人が大量に出てきたでしょーね

投稿: 万物創造房店主 | 2014年3月24日 (月) 21時21分

>今の北京の空気が真っ白なのと同じですね
 
ロンドンの霧=神秘的でロマンチック=ジェントルマンに似合う
って刷り込まれてしまっているから人間って面白いですよね。
単なるというか深刻な「公害」だったことを認めたくない心が
確実にありますね日本人なのに(^^;)
 

>「私は当時からナチスを否定していた」という人がいっぱいー
>「私はナチスを応援していた」という人が大量に
 
この辺の「一夜にして皆反ナチス」の空気に斬り込んだ近年の
作品としてはポール・バーホーベンの
「ブラックブック」(2006)
がありますね。
権力側と反権力側の『境界』にいた人々は一体誰だったか。
今もってタブーですね。そこへ行くと我々日本人の歴史は
結構大らかな気がしますね。関ヶ原以降から幕末,二・二六事件,
終戦等まで誰が敵で誰が味方で誰が裏切っているか何となく
お互いに知りながら一つの芝居のように動いていく。

投稿: kuroneko | 2014年3月25日 (火) 00時31分

>中国名所「霧の北京
 
もう10年近く前の冬に北京に行った時には
空は連日青かったすね。天安門広場も
なかなか厳かな雰囲気で良かったです。
食べ物も美味しかった。お粥よか炒飯とか
餃子とか。

投稿: kuroneko | 2014年3月25日 (火) 12時16分

>「ブラックブック」
これ面白そうですね
Amazonの解説にも
「母国オランダではこれまで悪者として描かれてきたナチスと、英雄視されてきたレジスタンスのイメージに一石を投じセンセーショナルを巻き起こした衝撃作」
とあります
 
バランスとれた感じの歴史観なんですかねー
気になります
 
廉価版も出てるし買っちゃおうかなー
 
 
 
>何となくお互いに知りながら
いことなのか悪い事なのか…
 
あまりに放置し過ぎが
福島のような人災を招いたとも言えますし
 
少なくとも
福島放射能汚染を拡大した人間
北朝鮮拉致を応援していた人間
オウムを応援していた人間
ぐらいは総括してほしいところです

投稿: 万物創造房店主 | 2014年3月26日 (水) 15時51分

>これ面白そうですね
 
面白いすよー\(^^)/
 
>バランスとれた感じの歴史観なんですかねー
気になります
 
バーホーペン的にバランスとれていると思います。
エロとグロとアクションとバッチリ(*^ー゚)b
歴史観は、、観てのお楽しみ(n´✪ω✪n)
 
>廉価版も出てるし買っちゃおうかなー
 
買っちゃって良いと思います( ̄∇ ̄)b
  
調度良い機会なので
旧ブログから感想文をお引越し
http://tokyo-kuroneko.cocolog-nifty.com/blog/2014/03/post-9c0f.html
 
しっかし七年も前の記事なのにまるで昨日書いたばかりの
ようにまるっきし何の進歩も見られない自分が寧ろ清清しい。。
(ーー;)
   
 
>あまりに放置し過ぎが
福島のような人災を招いたとも言えますし
 
まあしかし、本当に
未曾有の大人災でしたよねー
3.11
福島だけじゃなくて、、
とりあえず、
政権交代して本当に良かった(; ̄ ・ ̄)=3 フ
 
 
>福島放射能汚染を拡大した人間
>北朝鮮拉致を応援していた人間
>オウムを応援していた人間
 
なんか全部『同根』に行き着いてしまうような、、(ーー;;)
 
世の中なんて「ブラック・ブック」ばっかしや!!
(>_<。

投稿: kuroneko | 2014年3月28日 (金) 01時14分

>エロとグロとアクションとバッチリ(*^ー゚)b
これは観なくては!
;:゙;`(゚∀゚)`;:゙
 
 
 
>買っちゃって良いと思います( ̄∇ ̄)b
買っちゃいました!(*゚▽゚)ノ
 
 
 
>なんか全部『同根』に行き着いてしまうような、、(ーー;;)
 
要するにサヨクなんちゅーのは
全て
社会が悪い
国家が悪い
潰してしまえばよくなる
 
みたいな人たちですから
 
国家転覆のためなら
北露中オウム
どれとでも目的が合うわけですなー

投稿: 万物創造房店主 | 2014年3月28日 (金) 15時45分

>買っちゃいました!(*゚▽゚)ノ
 
感想楽しみにしております(^o^)/
 
>みたいな人たちですから
 
ここ1,2年アメリカで起こった70年代の
社会主義への激しい傾倒に陥った当時の
若者達を眺めていると色々考えさせれました。
人間って面白れーなー。怖えーなーと。
 
>どれとでも目的が合うわけですなー
 
偽政権交代と災害を利用して
税金をたらふく利用して
日本を破壊するだけして馬鹿者達も
本望でせう。。
それとも
まだまだ破壊し足りないかな(ーー;)

投稿: kuroneko | 2014年3月29日 (土) 01時10分

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