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2014年5月 6日 (火)

東京漂流某日(十四)

東京で大した野望も無くどうってことなく生きる
或る男の漂流記・・・

chapter14: 峠(4) 臨界点

 
 

 「、、駿さんですか?
黒猫は努めて冷静に切り出した。

 「黒猫くぅ~ん、元気ぃ?
数日振りに話をする駿は上機嫌だった。恐らくバイクでツーリング中で
駿からこれまでに聞いた話を総合すると、恐らくは北上中だろう。どこかの
路の駅にでも居るに違い無い。今日、この日にこのタイミングで黒猫が
連絡してくることは駿は予想していたに違いない。何度かけても繋がら
なかった携帯が今日に繋がったのが何よりの証拠だ。黒猫はそう思った。

 

 「何で電話してきたのか、分かりますよね?」
黒猫はなるべく言葉を選び、慎重に切り出した。

 「、、、分からないね。」
駿は上機嫌を装った態度をすぐに改めた。駿の返しは黒猫には想定内
だったので黒猫は慌てず次の"手"を進めた。

 

 「メガ・システムの納期が明日なんです。まだ解決していない問題が
幾つか残っています。協力してください。
黒猫は単刀直入に伝えた。

 「、、、嫌だね。
少しの沈黙があってからの駿の回答だった。

 「勿論、全部とは言いません。だから、、」

 「犬鷲に言えばいいだろう。そんな事。もう俺には関係ない。
懇願する黒猫の言葉を駿は刹那に遮った。これも予想した回答では
あったが、堅い決意を感じる駿の言葉に、黒猫はしばらく沈黙した。

 「、、犬鷲さんに出来るわけがないでしょう。」
リップサービスでは無いことは駿にも判っているはず。黒猫はそう思った。

 数分間の押し問答が続いた後で、通話時間+アルファのアルバイト代を
支払うという条件で、駿は渋々ではあるが協力を承諾した。

 「それで実行してみろ。どうだ?」
黒猫は駿の指示通りにコードを修正し、実行してみる。

 「ダメですね。ビープ音が出ます。エラーは解消しません。」
黒猫は、問題が解決しない焦りと、駿がいつ気分を変えるとも
判らない緊張と、睡眠不足に疲れを感じていた。

 「、、、土下座しろ。黒猫。
幾つかの操作を繰り返した後、駿から想定外の言葉が飛び出した。

 「今、何ていいました?
一瞬、黒猫は何を言われたのか理解出来なかった。

 「土下座をするんだよ。『出来ませんでした』って。安心しろ。
土下座なんて、俺は何回もしたことある。」
駿は突き放すように言った。

 「今さら、そんなこと出来ません。もう少しじゃないですか。あともう少し、、
突然に予想外の方向に話が動き出し黒猫は疲れも相まって
戸惑いを隠せなかった。

 「謝っちまえよ。黒猫。そもそも、犬鷲が俺を手放さなければ良かったんだよ!
この仕事は俺抜きでは"絶対に出来ない"のに、俺を引きとめなかった
犬鷲のミスだ。アイツの大ミスだよ!
駿は滔々と続けた。呆気に取られた黒猫は黙って聞いているしかない。

 「メガ・システムの仕事がポシャった鼎に、最早、来る仕事なんてねぇ。
他の仕事なんてとっくの昔に無くなっているしな。仕事が無くなるって
どういうことか分かるか?黒猫。お前も、そして鼎も、もう、お終いって
ことさ。
カ~カッカッカ。あー楽しい
駿の心からの楽しそうな高笑いが受話器の向こうで聞こえた。

 「悪魔だ、この男、、
黒猫は、昔読んだ漫画の台詞を思わず小さく呟いた。

 「駿さん、お気持ちはよく分かりました。分かりましたから、後少しだけ、、
黒猫はここに来て打つ手を無くし、懇願するしかなかった。

 「うるせえ!もう電話して来るな。じゃーな、黒猫。
駿の言葉の後、電話は切れた。

 黒猫はすぐさま掛け直した。数十秒のコール音の後、留守番電話の
アナウンスが始まった。

 ただいま留守にしております。
 発信音の後、メッセージを録音してください。最後に、、
 

 「駿さん、黒猫です。電話ください。お願いします。」
黒猫はメッセージを入れた後、駿からの電話を祈るように待った。

 仕事は完全に頓挫した。黒猫は電話を幾度と無く眺めながらキーボードを
いじたったが集中できるはずもなく、最早なす術も無かった。

 黒猫は再び電話の受話器を上げ、駿の携帯電話の番号を押した。

 お掛けになった電話番号は現在、電源が入っていないか、
 電波が届かない場所にあるためかかりません。

 お掛けになった電話番号は現在、電源が入っていないか、
 電波が届かない場所にあるためかかりません。
 

  お掛けになった電話番号は、、、

 

 「クソッ!!」
黒猫は思わず受話器を叩き付けた。

 「ゲーム・オーバーなのか、、

 黒猫は立ちすくんだ。誰もいないオフィスは不気味なまでに
重苦しく静まりかえって、黒猫はまるで碇を抱えたまま海底にでも
沈められているかのように感じた。疲労と寝不足が追い討ちをかけて
軽い目眩を覚えた。

 いつのまにか黒猫はオフィスを彷徨い出て、階下の自動販売機の
前に立っていた。

 いつもは買わない高めの缶コーヒーを買った。最悪の事態を迎えて
自身が動揺しているのか、それとも、連日連夜キーボードを打ち続けた
疲労からなのか、震える手をもう片方の手で抑えて一口飲んだ。

 「、、旨い。

 黒猫は自分を落ち着かせるかのように暗い廊下で独り呟いた。
こんな状況下にあっても、缶コーヒーを旨いと感じる自分が
可笑しかった。そして、そのたわいない"事実"が黒猫に僅かな冷静さを
取り戻させた。

 缶コーヒーを一気に飲み干してオフィスに戻り、大きく深呼吸を一つした。
黒猫は壁の時計を睨みつけ長く沈黙した後、目を瞑り、改めて考えを
巡らし始めた。

 

 「今は午前二時半だ。解決していない問題は後、四つある。ただし、
一つは最重要課題が解決すれば自動的に解消するはず。残りの二つは
概ね解決方法は見えているから夜明けまでには何とかなるだろう。
だから、問題は『ただ一つ』と考えていい。

 「納品準備は昨日までで一応完了しているから、仮にソースコードが
完成してしまえば大して準備に時間はかからない。30分もあれば充分だ。」

 「遅刻や乗り過ごしは絶対にマズイので朝の8時には会社を出ないと
納品先に間に合わない。ただし流石に二日貫徹はまずいので睡眠は
取らないと厳しい。1時間は寝ないと体がもたないだろう。そうすると、
最終デッドラインは6時半。。

 黒猫は、さらに瞑目し続けた。

 「最終テストに1時間以上は取らないと絶対にマズイ。と、すれば
5時半には全て完成していなくてはならない。完全に解決してはいないが
既に峠が越えている問題は二つ。それでも、それらのコード作成には別途
1時間は必要。。」

 黒猫は目を見開いた。

 「四時半だ。核心的な問題部分を解決するのにかけていい時間は
後、二時間。『四時半』までだ。四時半までに"それ"が解決すれば、、
駿さん、俺の勝ちだ。」 

 ロードマップは、出来た。 

 「残り二時間半に、、俺の"全て"を懸ける

 黒猫は、誰も居ないオフィスで独り叫んだ。

 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

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コメント

なんか展開が漫画チックになってきましたね…
話の切り方も…
( ̄◆ ̄;)

投稿: 万物創造房店主 | 2014年5月 7日 (水) 19時56分

>なんか展開が漫画チックになってきましたね…
話の切り方も…
 
えっと。。今のところ「実録物」路線でございます。
今回は「特に」シュチュエーションも台詞も
"誇張の一切無い"実体験の"再現"でございますd(≧∇≦)b
っつか今回の辛い体験を書きたくてここまで
長々と綴ってきたっす(ノД`;)
  
嘘のような本当の話
based on true story.
今しばらくお楽しみください
m(_ _)m

投稿: kuroneko | 2014年5月 8日 (木) 01時57分

>「残り二時間半に、、俺の"全て"を懸ける」 黒猫は、誰も居ないオフィスで独り叫んだ。
 
リアルに深夜の会社で叫んでいたと…
( ̄◆ ̄;)
 
痛い…痛すぎるよ…クロネコさん
ヽ(;´Д`ヽ)(ノ;´Д`)ノ
青春だなー

投稿: 万物創造房店主 | 2014年5月10日 (土) 16時20分

>リアルに深夜の会社で叫んでいたと…
( ̄◆ ̄;)
 
まあ、ホントの実際のところは
「独り、小さく呟いた」
くらいだったのだと思いますが、、(一_一;) 
 
心象的には、、
 
「黒猫は、"白目"を剥いて、
全フロアに聞こえる声で絶叫した!!」ミ゚Д゚ミ 
 
くらいの勢いで(^^;)ゝ
中盤のクライマックスなので予告編では
必ずここを使用するといことでヨロv( ̄Д ̄)v←?
 

>痛い…痛すぎるよ…クロネコさん  
 
所詮は、誰も居ないしね。(^^;)
今の会社ではもっともっともっと
"痛い"ことになっちゃてるしね。。(一。一;;)
マジで逃げてぇ。もう無理(ーー;)

>青春だなー 
 
一応20代中盤のお話ですからギリで青春すねー
変に責任感があったのも若い、、(^o^)
今なら、やりもしないうちから平気で
「すみません。出来ません。」m(_ _)m
って言いますね。全く躊躇せず。
( ̄∇ ̄)

投稿: kuroneko | 2014年5月11日 (日) 00時44分

>今の会社ではもっともっともっと"痛い"ことになっちゃてるしね。。(一。一;;)
 
深夜の会社内で叫びながら裸踊りとか…
 
深夜に女子社員の机の中から縦笛を取り出して、舐めまくってるとか…

投稿: 万物創造房店主 | 2014年5月12日 (月) 17時52分

>深夜の会社内で叫びながら裸踊りとか…
 
誰も居なければいいんじゃないでしょうか。
誰も見ていないなら。。叫ぼうが、裸になろーが
。。(;;一_一;;)
 
 
>縦笛を取り出して、舐めまくってるとか…
 
机に「縦笛」入れてある女子社員、、
異常に"イカガワシイ"シチュエーションですね(;゚д゚)
何かロマンポルノっっぽい、、?
 
いいんじゃん、別に、舐めまくたって、(一。一;;)
そんなもん、入れておく方も入れておく方だし
舐めまくる方も舐めまくる方で、
意外と相性いいんじゃないすかねー
そういう関係って(_ _)

投稿: kuroneko | 2014年5月12日 (月) 23時20分

つまりっ!
 
両方やらかした記憶があるっちゅーことですねっ!

投稿: 万物創造房店主 | 2014年5月15日 (木) 21時59分

 
深夜の会社ないで叫ぶ
→ ◎ そりゃねー誰しも一度は(一_一;)

深夜の会社ないで踊る
→ ○ せいぜい地団駄踏むくらいっす(一_一;;)

深夜の会社内で叫びながら裸踊りとか…
→ × ナイナイ(;;一_一;;)
 
縦笛を取り出して 
→ × 「縦笛女子」に遭遇したことありません(ーー;)
少なくとも会社では。。
 
舐めまくってるとか…
→ × そんなことするくらいならきちんとお誘い
しますなー流石に(ーー;;)

縦笛を取り出して、舐めまくってるとか…
→ × それにしも「縦笛女子」は語呂がいいなー
( ̄ロ ̄lll)

投稿: kuroneko | 2014年5月16日 (金) 00時50分

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