映画「太陽」
Сóлнце
Solntse
The Sun
監督: アレクサンドル・ソクーロフ
脚本: ユーリ・アラボフ,ジェレミー・ノーブル
撮影: アレクサンドル・ソクーロフ
音楽: アンドレイ・シグレ
編集: セルゲイ・イワノフ
プロダクションデザイン: エレナ・ジューコワ
衣装デザイン: リディア・クルコワ
出演: イッセー尾形,ロバート・ドーソン,佐野史郎,桃井かおり,つじしんめい,
田村泰二郎,ゲオルギイ・ピツケラウリ,守田比呂也,西沢利明,六平直政,
戸沢佑介,草薙幸二郎,阿部六郎,灰地順,伊藤幸純,品川徹
時間: 1時間55分(115分)
製作年: 2005年/ロシア,イタリア,フランス,スイス
(満足度:☆☆☆☆☆)(5個で満点)
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製作当時、「ホテル・ルワンダ」と同等かそれ以上に公開が危ぶまれた
作品。単館ロードショーとしては異例の超ロングランを記録した。
主人公は昭和天皇。太平洋戦争最末期の決断と苦悩を描く。
もしかしたら二度と撮られることのないテーマの映画かもしれない。
監督自らイッセー尾形を真っ先にキャスティングしたとしたらセンスが
いいと思う。現時点でこれほど最高な主人公のキャスティングは
ちょっと考えられない。二人とも謎めいていて孤高であるといえる。
"我が道"をひたすら貫いてきたイッセー尾形が日本人で文字通り
唯一無二の存在として重大な"選択"を迫られ続けた昭和天皇を"演じる"!
是非、"見てみたい"と思った。
物語は昭和天皇と太平洋戦争の末期を"モティーフ"にしたに
すぎないといってもいい虚実ない混ぜにした展開をみせていく。
とりあえず失笑したと同時に関心したのが天皇と閣僚達が一同に
会する御前会議のシーンで閣僚達が実際の人物達と顔(雰囲気)を
よく似せてあった点だ。鈴木貫太郎(総理大臣),米内光政(海軍大臣),
阿南惟幾(陸軍大臣),木戸幸一(内大臣),梅津美治郎(参謀本部総長)...
確信は持てないが(似せようとしたのは)間違いないだろう。皆が天皇
の英断を前にメソメソ泣くのも数々の証言をきちんと基にしてあると
思われる。大変なテーマにしかも外国の監督が挑戦するのだから
これくらいは当然やってほしいところだ。
そして主人公である。多分イッセー尾形自身も相当にリサーチして
臨んだのではないだろうか。口ぶりや雰囲気など私も自分で読んだ
限りの昭和天皇の"イメージ"をよく捉えていると思う。そして未だに
日本国民の多くが知らないことであるが昭和天皇は大変な研究家で
化学者でもあったがそういった点もよくおさえてあったと思う。ちなみに
昭和天皇には自身の海洋生物に関する著書も多数ある。
公開当時に話題になった東京大空襲のシーンは監督のソクーロフ
を含めた本作スタッフのリサーチと昭和天皇への氏の思いが結実した
ようなシーンで息を呑んだ。他にも天皇を乗せて走る車のシーンも
焼け野原とのデジタル合成処理は見事だ。ラストシーンは映像も
音楽も美しく、そして、無残だ。
本作を作られてよかった映画であると思う。稀代の役者イッセー
尾形がキャスティングされたことに拍手を送りたい。これからもこの
時代についての日本を舞台にした映画が徹底したリサーチを基に
製作されることを願ってやまない。
本作を観ようと思うけど昭和天皇のことをよく知らないという人には
「昭和天皇独白録」という本を読むことをお奨めする。できれば読んでから
本作を観るといろいろな感想を持つことができて、有意義だと思う。
『昭和』について『日本』について考えてみたくなることだろう。
誰にでもお奨めという映画ではないが、
日本人として産まれて、あるいは生きて、でほんの少しでも自分の国で
過去に何があったのか知りたい
という人はこの映画を観て、さらにこの時代の関連の本を沢山読むべし。
本作と事実との相違点をひたすら挙げて本作を貶めてもあまり
意味がないように思う。個人的な考えとしては先に述べたようにある
史実と一人の人間を"モティーフ"にした映画であるとしか言えないと思う。
それでも、アレクサンドル・ソクーロフの次の言葉は胸を打つ。
「彼はあらゆる屈辱を引き受け、
苦々しい治療薬をすべて飲みこむことを選んだのだ」
(映画パンフレットから抜粋)
70年後を生きる私達は、好きに喋り、好きに生きていい事を
"保証されている"国に生きてる。そして、幾度となく"その保証"を
自分達の手で勝手に捨てようとしてきた。
世界中が羨み、嫉妬し、「交換」か「譲渡」か「破棄」を執拗に陰湿に
望んで止まない国に生きているというのに。
監督のアレクサンドル・ソクーロフには2011年に日本政府より
旭日双光章が授与されている。
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