映画「ヘヴンズストーリー」
「ヘヴンズストーリー」
原題名: ヘヴンズストーリー
監督: 瀬々敬久
脚本: 佐藤有記
撮影: 鍋島淳裕,斉藤幸一,花村也寸志
音楽: 安川午朗
美術: 野々垣聡,田中浩二,金林剛
編集: 今井俊裕
出演: 寉岡萌希,長谷川朝晴,忍成修吾,山崎ハコ,菜葉菜,村上淳
時間: 280分 (4時間40分) [PG12]
製作年: 2010年/日本 ムヴィオラ
(満足度:☆☆☆☆☆)(5個で満点)
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少女サト(本多叶奈)は、祖父(柄本明)と二人で暮らす為に街を離れる
ことを余儀無くされる。サトの乗る後部座席には、遺骨が三箱置かれて
いた。サトの両親と、姉の遺骨だ。祖父との二人暮らしに不安を隠せない
サトは途中で腹痛を訴えて祖父の運転する車から逃げ出す。逃げ出した
サトは、テレビで妻と子供を惨殺された男(長谷川朝晴)が、涙を流し、
激高し、復讐を訴えている姿を見て何事かを決意し、祖父の下に戻った。
時は流れ、成長したサト(寉岡萌希)は「ある行動」を開始する。。
尺の長い作品なので、途中で着いていけなくなったらどうしよう?
ストーリーを追うという意味ではなく、自分の心が、「作品」であることを
拒否したらどうしよう?我慢して最後まで観るか。。何となく心配したが、
始まってすぐに只ならぬ緊張感を匂わせて登場した柄本明を見て、
そんな心配は無用だと悟った。サトの祖父を演じる柄本明が、サトを
泣きながら抱きしめる冒頭のシーンで、心配していたことも忘れて、
後はただひたすらに最後まで見入った。
「"失った代償"を払わせる為に」放った凶器は、結局は、放った
者の下に、孤を描き、より鋭利な牙となって、舞い戻りその者は斃される。
因果応報という不思議な、人間の手に負えない大きな『環』。本作の
長大と思える上映時間は、この大きな恐ろしい『環』を描くために必要な
時間で、必要であるから観ていて苦痛は無い。
瀬々敬久の下にスタッフ・俳優は一致団結してこの『環』を映像化・
物語化することに成功している。露出の長い短いに関らず、主演者達の
尽くが輝きを見せている。
栗原堅一、江口のりこ、吹越満、片岡礼子、嶋田久作、佐藤浩市、
柄本明、渡辺真起子、清水美那、、それぞれが、与えられたキャラクターを
作りこみ、適確な存在感を放っている。
柄本明は、長年リスペクトしている俳優の一人で、某映画館で目撃し、
目が合ったこともある。本作での冒頭で、主人公のサトの置かれた哀しく
重い境遇をたった数分間の重厚な演技と、ごく短い台詞で「完璧に」
表現している。この長大な物語を、緩やかに、確実に、動かし始めた
功績はとても大きくベテラン俳優の面目躍如というべきところか。冒頭の
柄本明の演技を観たいが為に今後も、劇場で上映されていれば観に
でかけることだろう。
家族を奪われて怒り、絶望し、また怒り、人生が流転し続けるどこまでも
"普通の男"トモキを演じる長谷川朝晴も素晴らしい。長谷川の役者としての
肩の力の抜け具合の絶妙さは、繰り返し鑑賞する価値がある。
ヤバ過ぎる副業に手を染める警察官(!)カイジマを演じる村上淳の正体
不明さもまた絶妙過ぎてこの男が出てくると物語がややこしさが増し"スープ"
の味に複雑さと深みが増している。謎の男カイジマに惹かれる渡辺真起子の
作り出す空間も、物語との親和性が完璧。カイジマの息子ハルキの前に
出てくるほんの僅かなシーンの時間的な短さに比べて物語に与える力の
大きさ。
登場人物は多く、場面展開がとても多いが、無駄なシーンは皆無で演じて
いる俳優さん達もスタッフもやりがいがあったことだろう。
映画を作る外的事情の困難さにへこたれることなく、脚本と、俳優と、撮影と、
美術と、音楽と、編集と、演出という内的事情でどこまでも徹底的に勝負し、
そして、勝利した「傑作」である。
サトは、『怪物』を見るのか。『怪物』が、サトを見初めるのか。
サトは、『怪物』になるのだろうか。
人は憎しみを抑えて、癒しあって、生きることは不可能なのだろうか。
復讐は、結局、最後には肯定されてしまうのだろうか。
人類は、ブーメランを投げることを自省し、放して、置くことができる
日が来るだろうか。
あるいは、ブーメランを投げまわして喜んでいる無頼を止めることは。
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コメント
ほめますねー
これは観てみたい
柄本明は
「二代目はクリスチャン」の刑事役が好きですねー
投稿: 万物創造房店主 | 2014年11月25日 (火) 21時22分
>「二代目はクリスチャン」の刑事役
自分も、この作品で
柄本明が決定的に好きになりました。
クライマックスのカチコミでの震えながら
志保美悦子をフォローする演技、、
素晴らしいの一言っす。
大河ドラマの「太平記」(1991)
でも高師直役で超いい演技していて、
レンタルビデオ屋がつぶれた時に
「太平記」総集編を大人買いして
柄本明のシーンだけ繰り返し観ていました。
「太平記」は
真田広之
陣内孝則
柳葉敏郎
高嶋政伸
宮沢りえ
後藤久美子
片岡鶴太郎
柄本明
武田鉄矢
緒形拳
他
錚々たるメンバーで
皆、いい演技していて
傑作大河
ですが。
「疑惑」(1982)
でも目茶いい味出してますよー
今、日本で最も重要な役者の一人すね。
>これは観てみたい
劇場に二回観にいきましたが、
今冬、また劇場でやるそうなので
三回目を行こうと思っています。
記事に書いてあるように
冒頭の柄本明が
まず素晴らしいすが
これからの邦画を背負っていく
面々の演技合戦も大変に見物です!
是非どうぞ!o(^o^)o
投稿: kuroneko | 2014年11月26日 (水) 00時26分
京都はとっくの昔に上映終わったまま放置ですね…
Amazonで検索しても出てこないので
ソフト化がいつかもわかりませんね…
投稿: 万物創造房店主 | 2014年12月 2日 (火) 00時35分
>ソフト化がいつかもわかりませんね…
東京では、毎年リバイバル公開されて
まあまあ好評みたいです。
今年で五回目ですね。
好評といっても一週間程度しかやらないので
今年は無理っぽいすが。
瀬々監督が去年のリバイバル上映の舞台挨拶を
した時に「あと、50年くらいはDVD化せずに35mmで
上映したい!」
と意気込んでおりました(^-^;)/
もうしばらくお待ちください。m(_ _)m
予想では、後二年くらいでわ。。
投稿: kuroneko | 2014年12月 2日 (火) 23時36分