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2014年12月30日 (火)

東京漂流某日(十六)

東京で大した野望も無くどうってことなく生きる
或る男の漂流記・・・

chapter16: 飛翔(1) インター・ミッション

 
 

 駿のピンチ・リリーフをどうにか、こなしてから一ヶ月が過ぎた。
メガ・システムからは新規の案件は来ず、既に納品した物件に関する
カスタマイズや残務的な処理に黒猫は追われていた。一度、全体像を
描けた仕事でもあるのでそれほど困難な作業ではなかった。

 黒猫は榊とのやりとりを全て犬鷲に伝えていた。特に新規案件を
今の鼎に持ってこられてもこなすのは難しいということを伝えた点に
ついては暈してはならず、本来は越権行為に近いが犬鷲は

「事実だから、仕方ないよね。」
と同意した。

 会社としては明らかに仕事は減り、リストラにより既に何人かは
会社を去っていた。

 

 その日、鼎としては珍しく関西にある会社から客が来てプレゼンを
やるということで、社長から黒猫も出席を命じられていた。

 「何のプレゼンをやるんだろう。」
黒猫には事前説明が無く、内容について見当がつかなかった。

 鼎側は社長と犬鷲と黒猫の三人が出席した。相手側は二人。
社長は、熱弁を振るった。何でも相手型が得意としているデータ・ベースの
構築技術と、それを活用しての保守実績が長くある国内外にある優良な
クライアントをネットワークで結ぼうということらしい。

 「一体、誰がこのプロジェクトをやるんだろう。。」

黒猫は、社長のやや具体性には欠けるものの、勢いは感じられる
熱弁をまるで他人事のように聞いていた。

相手の二人も半信半疑のようだ。

黒猫は、来社している二人の横顔を見ながらそう思った。

 「わが社においては、このプロジェクトを黒猫が担当します。

黒猫は耳を疑った。

 「、、、何を、、言っているんだ?社長は。」

メガ・システムの納品がいかに薄氷を踏む思いだったのか。
幾つかの幸運によって救われた結果に過ぎなかったのか。
駿の基礎作業の成果に多くを負っていたのか。。

黒猫は、犬鷲にも社長にも正確に伝えたはずだった。
今の鼎には、自社開発は当面は無理だということも。

 昼食を挟んで、午後も社長のプレゼンが続いた後、相手方は
「持ち帰って、前向きに検討します」との言を残して去った。

 黒猫と犬鷲は二人を見送った。

 「プロジェクトの進展は、ないな。」

 黒猫は、二人の自分達への挨拶の態度と、去り際に話して
いた雰囲気から悟った。

 隣りで見送っていた犬鷲も同様の気持ちであることはその表情から
読み取れた。黒猫は不思議な安堵の気持ちになった。

 

 「スゴイじゃない。黒猫!

 速目は、帰り道でいつもの屈託ない調子で黒猫に言った。
黒猫は、何かを思案しながら黙って歩き続けている。

 「、、、アンタを中心に会社が回り出したんだよ。嬉しくないの?

 速目は黒猫の顔を覗き込んだ。

 「そりゃ、嬉しいさ。だけどさ、俺に一体何が出来る?
駿さんは居なくなっちゃったし。社長はいい人だけど、技術的なことは
何も分からないし。犬鷲さんから教わる事も、もうないしさ。
、、今の俺には、何もない。

 速目は、黙って黒猫を見ていた。

 「速目、俺は会社を辞めるよ。この会社で学ぶことはもう何もない。

 黒猫は前を向いたまま、思案していた結論を出して、言った。

 「、、、そうね。私も、辞めようっと。

 速目は、驚いた様子を示したが、すぐに同調して言った。

 「オウ。辞めろ、辞めろ!

 黒猫は、速目の想定外の言葉に一瞬、面食らったが、声を
上げて煽った。

 「私はさー、アンタや駿みたいにゴチャゴチャ議論したり、喧嘩を
したりしなくても、プログラムも書けちゃうし、お電話番でも何でも
出来ちゃうしね。次は何をやろうかな。アイドルになっちゃおうかなー

 「今のうちに、サインを貰っておこうかな。」

 黒猫は、速目の"構想"に今度は逆に合わせておどけて見せた。

 「そうね。アンタにしては、賢明な判断ね。そうしておいた方が
無難よ。今度、会った時はさー、私は忙しくて、アンタの相手なんて
している暇はないわよ。きっと。

 速目は、楽しそうに黒猫を眺めて言った。

 「。。。」

 黒猫は、沈黙している。

 

 「、、、でも、話くらいはしてあげるわ。可哀想だから。

 「ハハハ。」

 「フフフ。」

 二人は笑って、坂を下りた。 

 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

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