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2015年1月10日 (土)

映画「マルタ」

「マルタ」

原題名: Mutter Kusters' Fahrt zum Himmel
監督: ライナー・ベルナー・ファスビンダー
脚本: ライナー・ベルナー・ファスビンダー,クルト・ラーブ
撮影: ミヒャエル・バルハウス
音楽: ペール・ラーベン
出演: マルギット・カルステンセン,カールハインツ・ベーム,ブリジット・ミラ
,イングリット・カーフェン

時間: 112分 (1時間52分)
製作年: 1975年/ドイツ

(満足度:☆☆☆☆)(5個で満点)
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図書館の司書として働く三十路過ぎの女"マルタ"は、父と共にローマに
観光に来ていた。父は観光中に急死する。帰国していつも通りの日常を
過ごすマルタは、ローマのドイツ大使館でマルタを見初めた"ヘルムート"と
結婚することにした。確かなキャリアを持つヘルムートと家庭を築き、幸せに
なれると信じたマルタだったが、マルタに相談することなく、マルタの勤め先に
離職届けを出したり引越し先を決めたりとヘルムートの一方的な行動は
エスカレートし続ける。やがてヘルムートは、聴く音楽と読むべき本までも
マルタに強制し始める。マルタは懸命に尽くそうとするが、、

 

 マルタには恐らく両親によるある種の「抑圧」トラウマとして残っている。
そのトラウマの原因は、きっとにあり、マルタにとってはが頼りであり、
救いだったのであろう。ヘルムート"理想の父(男)像"を見たが、やっと
解放された母をさらにバージョン・アップしたような"敵"だった。

 ローマのドイツ大使館でのマルタとヘルムートはお互いが意識せず交錯
する。二人は接近はするがカメラは旋廻し、すれ違って「出会って」はいない。
4年後に作られた「マリア・ブラウンの結婚」でもほぼ同様の撮影手法による
シーンがある。ファスビンダーか、あるいは撮影監督のミヒャエル・バルハウス
が気に入っていた撮り方だったのかもしれない。

 鏡の効果を狙ったシーンが随所にあり、調度品や絵画を捉えたシーンも
多い。ファスビンダーの隠されたメッセージと狙いがきっとあるのだろう。
キリストの磔刑の絵画は、マルタの運命をそこに重ね合わせているのか。

 美しく、明るいマルタには「独りで生きていく為の処世術」が致命的な
までに備わってなく
ある種の幸せな人生を送ってきたマルタに

「まとめて襲い掛かる悲劇」

を本作は執拗に描いていく。人生の普遍性の一つだと言わんばかりに。

 確かに、罠に絡め捕られたとしたら、脱出するしかなく、脱出する『術』を
持たない生き物は、上位の生き物に生殺与奪の権利をあっさりと奪われて
しまう。
法を駆使し、堅強な建物の内部に身を潜め、金品で周囲を囲もうとも、、
それは、人間の歩んできた歴史そのものとも言える。何よりもドイツとヨーロッパ
(と世界)が歩んだ、まだまだ新しくどこまもで苦い「記憶」だ。

 "マルタ"が何を象徴しているのか、ファスビンダーにとっては余りに
自明の事なのだろう。

 マルタが「ヘルムートの正体」に気付くのは余りにも遅すぎた。しかし、
"彼女の平穏な人生"からして仕方が無かったかもしれない。ヘルムートに
出会わなかったとしても、結局は同じような人間にロックオンされて
しまったことだろう。

 自らの重大な欠点にやがて気付いたマルタは、健気で且つ力強く、
本当の意味で美しい。

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