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2015年7月 6日 (月)

映画「映画に愛をこめて アメリカの夜」

「映画に愛をこめて アメリカの夜」
La Nuit américaine
Day for Night

 
製作: フランソワ・トリュフォー
監督: フランソワ・トリュフォー
脚本: フランソワ・トリュフォー,ジャン=ルイ・リシャール,シュザンヌ・シフマン   
撮影: ピエール=ウィリアム・グレン   
音楽: ジョルジュ・ドルリュー
出演: ジャクリーン・ビセット,ジャン=ピエール・レオ,ジャン=ピエール・オーモン
アレクサンドラ・スチュワルト,フランソワ・トリュフォー,ナタリー・バイ,
ヴァレンティナ・コルテーゼモーリス・ロネ,ジャンヌ・モロー,ジョルジュ・プージュリー,
ジャン=クロード・ブリアリ


時間: 117分 (1時間57分)
製作年: 1973年/フランス

(満足度:☆☆☆☆☆)(5個で満点)
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映画製作の現場そのものを名匠トリュフォーが描き、そして演じる。

 

 完璧なる群像劇。監督の視点を中心として、鮮やかに、艶やかに

『映画の現場』

をフィルム上に再現している。

 本作を観ると、なぜ猫も杓子も映画を撮りたがるのかが非常に良く判る。

 監督は必ずしもスタッフの頭上に君臨するのではなく、個々のスタッフでは
解決できない諸問題を撮影を進めながら妥協点を見出していく棟梁であり、
「現場」という名の学校の校長のような存在であることもとても良く判る
時には皆が嫌がることも率先してやらなくてはならない。だから現場はまとまり
皆自分の作業に集中できる。映画の現場は『社会の縮図』そのものだ。

 プロデューサーは資金集めに日々奔走し監督の見知らぬ人間を現場に
連れてきては勝手に見学させる。主役級のオールドミスは台詞を禄に覚えずに
現場のスタッフに責任転嫁する。若手俳優も現場スタッフも男という男は
手当たり次第に女に手を出し、女性スタッフも"アムール"に余念が無い。
技術スタッフは日々問題を抱え、監督に細部の変更を直訴し、脚本は身勝手な
俳優達やつまらぬ諸問題で変更を余儀無くされる。。

 それでも、事あるごとに気晴らしを兼ねたパーティーが開かれ、俳優達は
現場スタッフを労い、現場スタッフは俳優達のプライドを傷つけないように
裏方に徹するだけでなく、時には友人同然に悩みに真摯に応え撮影が
遅れようとも俳優のクダラネー悩みの解決の為に(表向きは)嫌な顔せず
日々奔走する

 劇中で保険屋の契約と組合の壁が大きく立ちはだかり撮影は幾度となく、
頓挫する。監督は全く動じずに、配役を変え、シナリオを変え、スケジュールを
大幅に変更し、映画製作の谷を、そして峠を越えていく。本作「アメリカの夜」は
システマチックに成りすぎて作品の質に拘れないハリウッド方式に侵食されて
いく映画製作の現場を嘆く意味も入っていると思われるがどうだろうか。

 監督を"演じる"トリュフォーは耳がよく聴こえないという設定で補聴器を
常に付けている。そして、耳が聴こえなくなったのは戦傷が原因であると
している。

 耳が不自由であるという設定が本作に大きく絡むわけでもないが、
トリュフォーにとっては"戦場で受けた傷を持つ独りの男"というのが劇中で
演じている人物の造形として大切なファクターとして演じている。そして、
『戦争』というキーワードは本作と同様にトリュフォーの他の作品でも極めて
重要な背景として作品にお化けのように姿は見えずに常にそこに『在る』。

 それは、きっとトリュフォーにとって『戦争』とは『愛』と対極に位置する
魔物だからなのだろう。

 映画を愛する全ての人々、映画を志す全ての人々、人生を愛する全ての
人々、自分の人生を愛し、他者の人生を肯定したい真っ当な全ての人々に
本作は捧げられている。他のトリュフォー作品と同じく、本作には人類への
『愛の賛歌』に溢れている。

 マイ・オールタイム・ベストにランクイン。

 私は、こーゆー映画を観たい。

 タイトルの「アメリカの夜」とは昼間でも夜のように見えるように撮影する
ために撮影機に取り付ける特殊フィルターの通称だとか。

 
 
 

 「映画作りは馬車の旅と同じだ。やがて期待は消え、ただ目的地に着く」 

 フランソワ・トリュフォー

 
 
 

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