映画「お国と五平」
「お国と五平」
原作: 谷崎潤一郎 「お国と五平」
監督: 成瀬巳喜男
脚本: 八住利雄
撮影: 山田一夫
美術: 中古智
音楽: 清瀬保二
出演: 木暮実千代,大谷友右衛門,山村聡,田崎潤,三好栄子
時間: 91分 (1時間31分)
製作年: 1952年/日本 東宝
(満足度:☆☆☆☆☆)(5個で満点)
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縁談で生涯の相手を決めたお国は、ほどなく闇討ちによりその夫を失う。
奉公人の五平が駆けつけた時に聞いた夫の最期の言葉の人物の名は
お国のよく知った名だった。お国は五平と共に仇討ちの旅に出る。。。
武家時代を舞台にした"完璧な現代劇"。
なぜ、仇討ちをしなくてはならないのか。
なぜ、恋い慕う相手と簡単に夫婦になれないのか。
なぜ、主従関係があるのか。
なぜ、武家の仕来りがあるのか。
そして、長年の歳月を、苦楽を共に過ごしてきた目の前の人間は
本当は、『何者』なのか。。。
エアポケット(深淵)に陥った人間達の"地獄"を名匠の成瀬を棟梁に
向かえ、脚本、撮影、美術、がしっかりと脇を固め、一瞬一瞬が極上の
エンターティメントに仕上がっている。
そもそも仇討ちの敵(かたき)が本当にお国を一方的に慕った相手
"友の丞(じょう)"なる人物なのだろうか。
観客も"お国"本人にも皆目判らない。
山村聡(1910 - 2000)は本作でも他の出演者を頭二つほど抜いて上手い。
物語を引っ張り、観客を笑わせ、そして強烈な「謎」を演技としての設定を超えて
提示してくれる。後の活躍と一時代の構築を十分に予見させて余りある「怪物」
である。今後は最早日本国内だけでなく世界的レベルで圧倒的な再評価が
進むのではなかろうかと思う。
五平は誠実な人間であることは充分に画面から伝わるが、時折発する
ドスの聞いた低音の声が得体が知れない不気味さを醸しだす。
五平は
「心の奥底では何を考えてお国に忠義を尽くしているのか」
お国の
「何の為に足を痛めながら確信の無い男の命を奪おうとしているのか」
という疑念は、母親と瓜二つの女の物乞いが突如二人の前に現れることで
心の闇は増幅を一気に加速させる。
そして、遂に『仇』なる人物が二人の前に現れる。。
傑作の鉄則として、「神は必ず細部に宿り給う」。
何気ない牛車を引くシーン、
くたびれた家屋と路地のシーン、
名も無い芸人達の婚礼のシーン、
庶民の唯一にして極限の愉しみである祭りのシーン、、
かつてあったであろう時代への郷愁とそこに生きたであろう人々の
人生の儚さと美しさ。
傑作は、そこに哀れな『人間』を観る。
何気ない風景。
何気ない描写。
何気ない表情。
その全てに「得体の知れない我々」を見る。
揺ぎ無い『傑作』。
恐るべきは人間。
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