映画「私が結婚した男」
「私が結婚した男」
I Married a Nazi
The Man I Married
監督:アーヴィング・ピシェル
脚本:オリヴァー・H・P・ギャレット
撮影:J・ペヴァレル・マーレイ
出演: ジョーン・ベネット,フランシス・レデラー,ロイド・ノーラン,
アンナ・ステン,オットー・クルーガー,マリア・オースペンスカヤ,ルドウィッグ・ストッセル
時間: 77分 (1時間17分)
製作年: 1940年/アメリカ
(満足度:☆☆☆☆☆)(5個で満点)
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ドイツ人の夫エリックとアメリカ人の妻キャロルは、友人である開業医の男の兄が
収容所に捕らえられていることを告げられ、出獄を斡旋するための資金500ドルを
その兄に渡すように依頼渡される。二人は息子を連れて大戦前夜のドイツへと
向かう。。
フィクションの体裁を取りながらもナチスというの「運動の"生態"」を記録
したフィルムとしては、リアルタイムで状況が進行する当時に作られたことも
あって、幾百の作品を圧倒する"凄み"に満ちている。
エリックとキャロルの間に執拗なまでに立ち入り、夫を転向させようと執念を
燃やす夫の幼なじみの女性。
ポーランド人に汚物を素手で片付けさせて屈辱感を徹底的に植えつける
ナチス親衛隊。
そして、我が身の可愛さの余りに被害者達を嘲笑する側に回る力なき人々。
保身からゲラゲラと情け容赦なく嗤う婦人は、
『世の中の仕組みと理由と状況』
が何も判らない自分の息子が「真に受けて」ポーランド人達に物を投げようと
すると一瞬で表情を曇らせて"その蛮行"を諫め、止めさせる。ほんの、
僅かに1,2秒のシーンであるが、こういった「瞬間の描写」が作品の品位を高め、
観客の心を捉え、時代を超えて、
大事な何か Something
を伝えていく。
監督のアーヴィング・ピシェルは、俳優から監督に転身したキャリアを持ち40年代
後半から50年代にアメリカで吹き荒れたマッカーシズムの際には非米活動委員会
から召喚状を受けた"ハリウッド・ナインティーン"の中にその名前を見ることが
出来る。振幅の多かったであろう人生は、広角レンズのように様々な立場の人々の
行動心理を捉えている本作に反映されているとは言えまいか。
クライマックスでの"時代に酔ってしまった息子"と、そのわが子に対して、そして、
息子の世代の全ての人々に向けた父の心と魂を込めた、そして最早、息子でも
人間ですらもなくなりつつあるわが子への命懸けの演説は、チャップリンの
「独裁者」(1940)のラストシーンにも匹敵する映画史上に残る名シーンといって
いいだろう。
単なる反ナチス、全体主義批判ではなくて、身の丈を越えた権力を保証された
者達が実にあっさりと「人間を止めていく」ことの恐怖を描いている点とWWⅡの
結末をまだ人類が体験してない段階で製作された作品という点を考慮すると
恐ろしくレベルが高く、好き勝手にトリミングし放題「後出しジャンケン」の
幾百幾千の作品を軽々と越えていて、今後も超えることは容易ではないだろう。
それは時代の脆弱性と恐るべき欺瞞を表わしているということでもある。
「いつかこの国にも美しい花が咲く日が来るでしょう。」
"我々"はなぜ、"我々"であるのだろうか。
"我々"が、"我々"ではなくなるとすれば、それは何をもってなのだろうか。
"あれから"膨大な月日は流れ、膨大な犠牲者を出した代償として、
美しい花は、咲いているのだろうか。
そもそも、花は咲いたのだろうか。
咲く前に枯れてしまっていたのではないだろうか。
美しい花は、咲く日は来るのだろうか。
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