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2016年1月17日 (日)

映画「天草四郎時貞」

「天草四郎時貞」

監督: 大島渚
脚本:石堂淑朗,大島渚
撮影:川崎新太郎   
美術:今保太郎   
音楽:真鍋理一郎
出演: 大川橋蔵,丘さとみ,大友柳太郎,三國連太郎,佐藤慶,平幹二朗

時間: 101分 (1時間41分)
製作年: 1962年/日本 東映

(満足度:☆☆☆☆)(5個で満点)
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「信じる」ということの"不可能性"を大島渚が骨太に描く歴史大作。

 モブシーンのコントロールが行き届いていて見応え充分。役者もそれぞれの
持ち味を自発的に活かして大島渚が持ち場を上手く割り振りしている。

 大友柳太郎は、信教の自由とほぼ関係なく絶対に人を裏切らない"仁"の
勇者として描かれ、「幕末残酷物語」(1964)で土方・近藤路線に敢然と異を
唱えて悲劇的な最期を迎える山南敬助を彷彿とさせ、他の役者とは比較に
ならない馬上での雄姿
は傑作「酒と女と槍」(1960)を思い起こさせる。

 三國連太郎は、キリスト教を信じているのか、信じているのか、
"どちらの側"にも本当のことを知られることを病的なまでに恐れる男を
過剰とも思えるほどに熱演しており、三國の出演シーンだけ見れば、
まるで主役そのものの存在感だ。「飢餓海峡」(1965)で演じる男との
共通項も多く、そもそも、個と集団の中で揺れ動き続ける人間を演じ
させれば三國ほど上手い役者もいないだろう。というか"それ以上"の
何かを氏の演技からはいつも感じるわけだが。

 三國の演じる絵師だけが、"自己"の弱さ、味方も敵も関係なく死にたくない・
助かりたいという煩悩に塗れた「普通の人間」を頭飛びぬけて演じており、
作品に深みを与えている。

 佐藤慶は、幕府の直参を卒なく演じていて、信心を捨てない百姓達への
苛烈な処分はあくまでも官僚として、幕藩体制の維持の為の当然の残酷性の
発露の上であるという演じる人間の動機付けを演技というメカニズムに
昇華させている。これは「剣鬼」(1965)や「刺青」(1966)などでの役柄にも通じる。
最も、佐藤慶はプロの役者になる前には会津若松市役所に勤める公務員で
あったというから巨大な権力機構の一員という立場はお手のものという
アドバンテージは、ある。

 百姓達の決起をあくまでも戦(いくさ)であり、義憤に駆られた武士や
浪人の参入による体制側との"合戦"であるという前半の明確な描写が、
後半における命の保証が無いにも関らず依然として戦う決意を示す
"天草四郎"に対して内ゲバ的な内部分裂と塩梅が良く、思想的な観点から
のみ描かれることなく最後まで「エンターティメントして」いる。

 そして、描かれる女達の"眼"。

 信心によって繋がっていると女達を諭す男達の嘘を射抜く女達の眼。

 男達は命以外に失うものは何もないが、女はキリスト教であろうが、
仏教であろうが、無神論者であろうが、生きてる限り「自分の身」を
守らなくてはならず、他に守るものは無い。自分自身を穢れから守る為で
あれば嘘も付くし夫の下も離れるし、火炙りの刑にすらなる。

 それは、「自分達以外の存在」とは決して相容れない動機である。
大島渚は『女』を『女』のまま自分の観念や妄想で糊塗することなく
描いていることが、本作では奏効しており、多くの思想信条を描く作品が
どうしようもなく胡散臭くて目を覆いたくなるのは女性を『女』として
捉えることを拒否することにより返って極度の蔑視すべき描写になって
しまっている点である。

 それにしても、やたらと人物描写にシルエットが多いこの作品。主人公を
演じる大川橋蔵は出来上がったフィルムを見て唖然としたのではなかろうか。
意図的な演出と思えるが"誰が誰だか判別できない影の群れ"を全面に
置くことで信じるといいつつ「信じない」大島作品の他の作品にも顕著に
見られる物語を進行させつつ「人間の表裏」を表現しているようにも思う。

 男はヒエラルキーの中で生き、そして死に、女は女の、自分自身の
固有の信条に殉じようとする。

 まるで描かれているところの思想信条の自由への希求そのままに、
「隠れた傑作」とは言えまいか。 

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