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2016年1月10日 (日)

映画「国境の町」

「国境の町」

原題名: Окраина
        A Provincial Town Okraina
原作: コンスタンティン・フィン
監督: ボリス・バルネット
脚本: コンスタンティン・フィン,ボリス・バルネット
撮影: ミハイル・キリロフ,A・スピリドノフ
音楽: セルゲイ・ワシレンコ
出演: エレーナ・クジミナ,セルゲイ・コマロフ,ハンス・クレーリング,アレクサンドル・チスチャコフ

時間: 96分 (1時間36分)
製作年: 1933年/ウクライナ

(満足度:☆☆☆☆☆)(5個で満点)
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ドイツとの国境にほど近いロシアの田舎町。貧しい暮らしの中において
ドイツ人、ロシア人はそれなりに共存をしていた。しかし、第一次世界
大戦が突然勃発し、ドイツとロシアは交戦状態になり、人々は国籍に
よって、"心"が分断されてしまう。戦いは激しさを増し、大量のドイツ人が
捕虜として収容される。。

 冒頭のドキュメンタリータッチの人々の穏やかな日常の描写や、今日の
視点から見ると、エイゼンシュタイン出現以降の良くも悪くも確立して
いく『映画術』に染まっていないややぎこちないかとも思えるモブシーン、
カメラワークに反って新鮮な印象を受ける。

 戦闘シーンは、所謂"神"の視点ではなく、徹底して一兵士の視点から
描かれ、"ズキューン","ダダダッ"という映画の世界の作り物的な"濁音的"
な加工音ではなく、実際の戦場体験からリサーチしていると思われる
"ピューン","ピューン"という空気を切り裂く寧ろ軽い銃撃音と爆風と埃
その最中でドイツ兵もロシア兵も何が何だか判らないまま突撃し、銃剣を
敵味方も判らないままに突き立て、仲間のあるいは自身の突然の『死』と
遭遇する。
個人の命の消失を誠実に映像化している点で何百倍も予算をかけ
テクニカルアドバイザーを何人と雇い豪奢な音楽と特殊撮影で"虚構"を
作り出す凡百の戦争映画を「軽く」越えている。

 後半の"帝政の終焉"と、"革命臨時政府"については控えめではあるが
肯定的に描いているが、戦争勃発により人々の心に否応無しに生まれる
猜疑心から破壊される暮らしと同様のベクトルを革命に燃え、資本家層を
徹底的に蔑み、捕らえていく人々の様とその"目"には鬼火が見ていること
を監督のボリス・バルネットは確かに捉えている。

 捕虜とはなったが政府にも資金は幾らもなく、敵地で就職活動をして
よいという大らかな?時代背景の中で、交戦中の国で知人もなくたった
一人で靴職人として働くドイツ人青年の孤独と、リンチに合うまいとする
周囲への配慮の緊張感のリアルな演出も素晴らしい。戦争とは人が死ぬから
悲惨なばかりでなく、人々は獣以下に堕ちてしまうからこそ惨いのである
という昨今の映画ではとても描けない人間としての当たり前の不偏性を
淡々と描き、同時に祖国の為に戦うことの抑えられない高揚感もきちんと
描けている。いつの時代も変わらないと思える『ごく当たり前』の庶民の
ナショナリズムと自制心の揺れ動きを描くことは何とインテリジェンスが
必要なのだろう。

 『人間』を映画や物語において「再現できなくない」という点において、
我々は人間を止めてしまっているのかもしれない。 

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