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2016年2月14日 (日)

映画「今ひとたびの」

「今ひとたびの」

原作: 高見順
演出: 五所平之助
脚本: 植草圭之助
撮影: 三浦光雄
音楽: 服部良一
美術: 松山崇
出演: 龍崎一郎,高峰三枝子,河野秋武,北沢彪,田中春男,谷間小百合,
清川玉枝,中北千枝子

時間: 118分 (1時間58分)
製作年: 1947年/日本

(満足度:☆☆☆☆)(5個で満点)
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大学を出て、貧困に苦しむ人々の力になりたいと左翼運動に傾倒しつつ
月島の無料診療所で働くことを決意する野上(龍崎一郎)は、会社社長を兄に
持つブルジョア階級の暁子(あきこ)(高峰三枝子)と出会い強く惹かれる。
暁子も社会の矛盾に実直に取り組む野上に好意を持つ。しかし、暁子には
許婚がいた。。
 

  全体的に撮り方が上手い。特に、暁子が野上と結ばれないことに悲嘆して
逃避する海岸でのシーンはとても叙情的で心象風景そのままの構図となって
いて観ていて心拍数が上がる。もちろんモニターなんてものはまだない終戦後
まもない時代でも、いや、であるからこそ高峰三枝子の女優としての美しさと
演じる暁子の持つ凛とした美しさを見事にフィルムに焼き付けている。
撮影の三浦光雄は本作で多くの賞を受賞している模様。

 終戦からまだほどない東京の各所でのロケシーンは貴重で見どころの
一つと言える。月島周辺、勝ち鬨橋、神宮 美術館、鉄道や下町の風景、、

 "ブルジョア"は、経営のなんたるかを知らずに"パイ"を増やすことが
できないがゆえに、無為に劣悪な労働環境を放置して、労働者を酷使する
ことしか出来ない。労働環境を良くして作業工程を細分化することで
どれほど利益が爆発的に伸び賃金も上げられ、福利厚生も改善できるかを
『知らない』

 知らないがゆえに不平不満の声を挙げる労働者を蔑み、解雇と賃金カットに
余念がない。労働者側は経営側と対峙することに全精力を注ぎ込み、
恒久的な福利厚生の増大を主張し、経営陣に取っても利益があるという
ことには踏み込みはせず
ストライキの為のストライキ反抗の為の反抗
イデオロギーへの転嫁にこちらも余念がない。

 かくして、物事の改善は決して起こらずに、ブルジョアは暴利を貪り、
社会を"革新"したい連中はますますアジテーションに奔走し、パワーバランス
の境界を行き来する人間はこっそり甘い汁を吸う。庶民は絶望しつつも
ブルジョアに反抗しつつ、自分もブルジョアになりたいと願う。。

 右・左・真ん中のそれぞれの位置で、あるいはそのいずれでもなく、
いずれかに近い位置で社会を勝手気ままに解釈して生きる人々を
"演出"の五所平之助は高見からではなく、「底の方」から優しく、時に、
同情的に眺める。

 貧困に同情しつつも、自分の生き方を真摯に模索し続ける野上を思想・
信条的に肯定するのではなく、人間の生き様として肯定する。

 not "A" but "B".

 の仕組みが出来るか出来ないかで映画の出来はほぼ決まると言っていい。

 "A"と"B"が逆になっている作品はいくら映像が豪奢でも何の意味もない。
というか、存在価値はマイナスである。五所や成瀬や溝口といった伝説の
監督達の作品は切り口はそれぞれ異なりつつ、結局この論理式が成立して
いることに観客は溜飲を下げ、安堵し、拍手喝さいし、劇場に足を運ぶ。

 暁子と結ばれないことに失望した野上が心気一転して勤めるダムの
放流が豪快に見える診療所でのシーンでの映像は素晴らしいの一言。
五所も撮影の三浦光雄もよほど気に入ったのか繰り返し挿入され物語上も
シーンとしてのクライマックスを迎える。

 ハイライト・シーンは偶然と必然の繰り返しが三度、野上と暁子に
微笑んだ、野上の親友が出征する前夜のバーでのシーン、自称インテリの
お調子者(を装う)友が尚も煮え切らない野上と暁子に渾身の説教をぶつ
シーンだろう。

 人を愛すること。

 友を(友でなくとも)助けること。

 人生を謳歌すること。

 何百・何千という"自称映画"が日夜世の中に流されていこうとも
これらの「瞬間」をきちんと捉えている作品となると、どれだけに
なるだろう。

 じれったいシーンを飽くことなく見せられる本作を観る価値は、
この友人君の応援のシーンにあるとも言えるだろう。

 

 遂に、野上にも召集令状が届く。

 二人は再会を誓って時計を交換する。。

  
 
 

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