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2016年3月12日 (土)

映画「海軍特別年少兵」

「海軍特別年少兵」

監督: 今井正
脚本: 鈴木尚之
撮影: 岡崎宏三
音楽: 佐藤勝
美術: 村木与四郎
編集: 黒岩義民
出演: 地井武男,佐々木勝彦,三國連太郎,小川真由美,山岡久乃   

時間: 127分 (2時間7分)
製作年: 1972年/日本

(満足度:☆☆☆☆+)(5個で満点)
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 太平洋戦争は末期を迎え、硫黄島での激戦も終盤を迎えていた。
日本側は退路を絶たれて絶望的な状況であって尚、戦い続けていた。
その最中に次々と斃されていく少年兵達と、少年達の名を叫びながら戦う
一人の男の姿があった。物語は、少年達が入営した日から幕を開ける。。

 50年代半ばまでの戦後の復興の熱気から東京オリンピック(1964)も終り、
70年代になると、邦画は急速に描くべき方向性を見失っていくように感じられて
余り期待しないで観たがなかなかの力作。監督の今井正が描くところの戦争観や
日本人像には正直言って、物言いを付けたい点が色々とあるのだが、
本作は全体的にかなり良かったと思う。

 オープニングの硫黄島での戦いは「戦争」というものをひたすら、人間を
挽肉にしていくだけのミキサーのように描いていて、戦場を知らない人間が
空想または妄想で描いているかのような嫌らしさがある

 これは何も本作に限ったことではなく戦争映画全般に言えることでもある
そして、一見、地獄絵図を描いているように見えても、四散した死体の描写は
実は全然ない。
予算的なものか、あるいは意図したものか。前者なのでは
なかろうかと思うがどうだろう。

 入営した少年達の主要人物が自己紹介をするくだりでほんの数十秒か
一分程度ではあるが志願した理由がきちんと個々のシュチュエーションで
セットや背景まで作られて撮られていることに軽く感動。

 貧しさの余りに入隊した者。父の"思想"に反発して志願した者。複雑な家庭
環境に耐えかねて志願して来た者。。

 近年、悪意によってすっかり汚されてしまった感のある『平和』という言葉に
本作が毒されていないのは、少年達を鍛え上げていく地井武男演じる熱血
鬼教官工藤と、少年達との交流に"あざとさ"がなく、且つその交流は物語の
添え物ではなく、中心として描かれている心地良さにあることに尽きる。少年達が
その幼さゆえの純真であるからこそ、戦争を遂行しようと、反対しようと、結局は
大人達の行動は『どちらに身を置こうとも』保身からくる偽善が相当量入っている
という普遍性により物語のリアリティが自ずと高まっていく

 地井武男が演じる工藤という男は、ある点において、正しいとは言い難い。
間違っていると言えば、間違っている。

 『教育とは"力"か、それとも"愛"か』で佐々木勝彦演じる吉永中尉と工藤は
何度も衝突する。少年達は過酷な訓練に耐えかねて一旦は吉永の説く"愛"を
選ぼうとする。しかし、戦争とは『力(POWER)』そのものであり、年端のいかぬ
少年達を『力(POWER)』の最前線に引きずりだしてしまっているその時点で

"愛"は辻褄を失っている

 工藤とて、平和の中であれば日常を謳歌して生きるに過ぎない市井の男である。
『力(POWER)』の競争に乗った日本は、その当然の帰結として『総力戦』を挑み、
少年達もまた自分達の限界を敵に向かって投げ出す。

 工藤は少年達に対して"大人の代表者"としての「最低限」のまたは
「最大限」の責務を果たそうとする。

 戦争を見誤った人間達の多くは安穏と生き残り、今度は無邪気に過ぎる
根拠の無い『責任無き平和』を叫び続ける

 "戦争"か"平和"かの二者択一ではなくて、どこまで事態を見極められるか、
どこで見誤るか、そして見誤った場合には自分と他者に対してどこまで誠実に
対応できるのかが問題である。

 鈴木尚之の脚本、岡崎宏三の撮影、そして、村木与四郎の美術、佐藤勝の
音楽、黒岩義民の編集は登場人物達に寄り添い、過程を丁寧に描き、
奏効しているといえよう。 

 本作は偶然に出会い、懸命に生きた者達の物語に過ぎない。

 それだけに過ぎない点をきちんと抑えてこそ、『戦争を描く』意味も初めて出てくる。
 
 

「見ろよ、まだ子供じゃないか。」

「こんな子供まで戦わせやがって。」

絶命寸前の少年は息絶え絶えに応える。

「No. I am not a boy.」

「I am a "soldier".」

 

彼らをこれほどに駆り立てた物とは一体何だったのか。

嘘と欺瞞と捏造に阿って生きている者に判るはずもない。 

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