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2016年3月19日 (土)

映画「道中の点検」

「道中の点検」
TROVERNA NA DOROGAKH

原作: ユーリ・ゲルマン
監督: アレクセイ・ゲルマン
脚本: エドゥアルド・ヴォロダルスキー
撮影: L・コルガノフ
音楽: イサーク・シュワルツ
出演: ロラン・ブイコフ,ウラジミール・ザマンスキー,オレグ・ボリーソフ

時間: 97分 (1時間37分)
製作年: 1971年/ソ連

(満足度:☆☆☆☆☆)(5個で満点)
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ナチス・ドイツと激しく戦うソビエト軍パルチザン部隊に投降してきた謎の男
ラザレフ。捕虜としての屈辱を受けながら激しい戦闘の中で活躍を続けるが
組織の信頼を得るのは容易ではなかった。やがてドイツ軍に潜入し列車を奪う
作戦を命令される。。
 

 冒頭、進撃を開始したドイツ軍の迫撃砲の雨に晒され、民間人は容赦なく
棲家を追われていく。

 戦闘シーンのリアルさと、迫力は数ある戦争映画でも屈指ではなかろうか。
女は泣きくずれ、老人は斃れ、足の無い子供は必至に杖をつき逃げ惑う。
兵士達は反撃するか、そこから逃げることも出来るが、民間人は成す術もない

 殺害したドイツ兵を時限装置をセットして放置し、後続の兵を次々と殺害して
いくという戦争としては常套手段であろうが、兵士同士の接近戦が淡々と
描かれることで戦争の惨さと恐ろしさを描くという出来そうで相当に
出来ない描写
を成し遂げていることに驚嘆する

 さっきまで談笑して共に煙草をふかしていた仲間が次の刹那には"死体"に
なっている。最前線ではごく当たり前に起こり得るだろう(と推測される)ことが
描かれていくことの凄さ。

 主人公のラザレフ演じる俳優は目に力があり存在感が抜群で、醸し出す
オーラは三船俊郎を思わせる。良い意味で俳優然とした俳優達を点在させる
ことで、観客を戦場にいる臨場感を味あわせると共にリアルなセットとユーモア
溢れるかけあい、ベテラン兵士と青二才ののお約束的な展開等を随所に
ちりばめて極上のエンターテイメントとしても成立している。

 後半ではソ連側パルチザンがドイツ軍の列車を橋ごと吹き飛ばそうと画策
する。これから爆破しようとするとロシア人の捕虜で満たされた船がゆっくりと、
ゆっくりと、挑発するかのように橋の下を通過する。

 この時の100人近くかそれ以上いるかもしれない船上の捕虜たちの表情を
捉えたショットは秀逸だ。一人一人の顔の表情が克明に判るようになっている。
皆、疲れきり、戦うこと、戦争そのものにうんざりしたという表情をしている。
パルチザン達は爆破スイッチを押すのか否かの選択を迫られる。恐らく戦争
映画史上においても屈指の名シーンであり、無数の捕虜たちの『表情』で
戦争の何たるかを訴えいてる。

 まるで、ピュリッツァー賞候補になりそうな傑出した報道写真の一枚のように。

 クライマックスのドイツ軍への潜入と激しい銃撃もまた残酷であり、
であるがゆえに"ショー"として成立している。機関銃を撃ちまくるラザレフの
圧倒的雄姿と構図はまるでマカロニウエスタンだ。

 本作は15年間公開禁止だったので、エンドクレジットでは"1985年"の
表示が出る。公開禁止だった理由は明白だ。『戦争とは残酷』なのであり、
人から奪うことしか出来ないスキームであるという『真実』がどのシーンにも
「きちんと」描かれているからだ。

 残酷な戦争を残酷であると見事なまでに描いているからこそ、『極上の映画(娯楽)』
として成立してしまっているパラドックスもまた我々の社会と歴史そのものなのかも
しれない。

 

[独ソ戦]
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独ソ戦(どくそせん)は、第二次世界大戦中の1941年から1945年にかけて
ドイツを中心とする枢軸各国とソビエト連邦との間で戦われた戦争を指す。
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この戦いにおいて、特にソ連側の死者は大規模である。なお、独ソ戦の
犠牲者(戦死、戦病死)は、ソ連兵が1128万人、ドイツ兵が500万人である。
民間人の犠牲者をいれるとソ連は2000~3000万人が死亡し、ドイツは
約600~1000万人である。ソ連の軍人・民間人の死傷者の総計は第二次
世界大戦における全ての交戦国の中で最も多いと言われている。
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(ウィキペディアより)

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