« 映画「賭博師ボブ」 | トップページ | a village »

2016年4月 3日 (日)

映画「エレナの惑い」

「エレナの惑い」
Елена

監督: アンドレイ・ズビャギンツェフ
脚本: アンドレイ・ズビャギンツェフ,オレグ・ネギン
撮影: ミハイル・クリチマン
音楽: フィリップ・グラス
編集: アンナ・マス
出演: ナジェジダ・マルキナエレナ,アンドレイ・スミルノフウラジミル,
アレクセイ・ロズィンセルゲイ,エレナ・リャドワカテリナ

時間: 109分 (1時間49分)
製作年: 2011年/ロシア

(満足度:☆☆☆☆+)(5個で満点)
------------------------------------------------------------
裕福な男と再婚した中年女性エレナ。彼女には無職の息子夫婦と可愛い
孫がいた。再婚相手の夫のウラジミルは優しい男であったが、期待していた
息子夫婦への援助には冷淡だった。ウラジミルは心臓病を患い、遺言状を
作ると言い出す。。
 

 映画における傑作は音楽も独立して(且つ相乗効果を果たして)良い場合が
多い。フィリップ・グラスが手掛ける重奏なBGMは、物語を過剰に謎めいて演出
しているのではなく、監督アンドレイ・ズギャンツェフのまるで、手術用の鋭利な
メスで痛みを感じさせずに人間を解体しているかのような、鮮やかに、手際よく、
そして冷めた演出と歩調を共にして人体の内部を覗くようにして得体に知れない
"NINGEN"(human being)という生き物の「心の音とリズム」を奏でているように思う。

 タイトルは、原題通りの「エレナ」だけで良くて、「~の惑い」は全くの蛇足
内容を見間違えてしまうと思われる。

 本作における登場人物は"全員がエゴイスト"であり、エレナは単なる
ナビゲーションの一人に過ぎない。

 エレナは「惑うことがない」ことが本作の見所の一つで、それは観る者にとって
「恐怖」でもあるのだ。

 夫のウラジミルは、エゴイストであるが、恐らく一代で築いたのであろう財産を
自分と可愛い一人娘のためと、再婚した相手であるエレナに使いたいと思い、
実際その通りに実行しているある意味で実直な男だ。その点についての直進
振りは寧ろ好感が持てる。

 ウラジミルの娘カテリナは、家庭を顧みることなく財を築くことに猛進して
生きてきた父を憎んではいるが、同時に、愛していることも自覚していて、
過去はともかく現在はそれなりに自省して生きてる。

 父娘の病室での会話は中盤の見所の一つであり、娘に真摯に話しかけ
ようと努める父とその娘という構図は感動的である。特段に"わがまま親子"
とは観客には映らない。

 エレナの息子夫婦は、世界中のどこにでもいるであろう倦怠期を迎えた
中年夫婦であり、最初からエレナの再婚相手に食わしてもらう気満々であり、
「こちら」の方がよほど問題である。

 エレナの息子は、ウラジミルの娘とは違って、自分の人生の自堕落さに
葛藤することはすでに諦めたか、もともとしていないかで完全に開き直っている
そのくせ、三人目の子供を平気で作ってしまい軽度の"悪党"と呼んでもいい
のかもしれない。あるいは"世界標準"においては、それが普通なのか。。

 初孫は青年期を迎え大学に進学する時期になっているがその準備は全く
出来てない。近所の悪童とつるみ、自ら距離を置く根性も、防衛策も持ち合わ
せていない。

 そして、エレナの再婚相手ウラジミルはこのエレナの孫を心配して助言を
与えていることが劇中からわかる。

 自堕落な人間の向かう方向は古今東西、その相場は決まっている。

 題名は原題通り「エレナ」で十分であろう。

 高級マンションと、貧民街と呼んでいい郊外の安アパート。きっとロシアには
どこでもあるのであろうごく普通の町並みと人々。"生き場"(行き場ではない)の
無い若者達。。登場人物達もどこまでも普通の人々。。

 であるのに、どうしてことごとくが見応えのある、観賞価値のある"絵"に
なっていって、どんなに金をかけ贅をこらしてセットとCGを駆使した作品に
軽々と勝ってしまうのだろうか。いつも不思議に思う。

 アンドレイ・ズビャギンツェフの演出と映像術の前では、あらゆる駄作に
おいての言い訳
(金or時間or人材orその全てorそのいずれかが足りないから!)

は粉みじんに原子レベルまで分解されてしまうであろう。

 全く、頼もしい才能が現れたものだ。思う存分、映画というキャンパスに
イメージを描き続けていって欲しい。

 

---------------------------------------------------------------
映画感想一覧>>

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

|

« 映画「賭博師ボブ」 | トップページ | a village »

映画」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« 映画「賭博師ボブ」 | トップページ | a village »