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2016年4月23日 (土)

映画「アンダーグラウンド」

「アンダーグラウンド」
Подземље/Podzemlje
Underground


原作: デュシャン・コバチェヴィッチ
監督: エミール・クストリッツァ
脚本: デュシャン・コバチェヴィッチ,エミール・クストリッツァ
撮影: ヴィルコ・フィラチ
美術: ミリアン・クレカ・クリアコヴィッチ
音楽: ゴラン・ブレゴヴィッチ
出演: ミキ・マノイロヴィッチ,ミリャナ・ヤコヴィッチ,ラザル・リストフスキー,
スラヴコ・スティマチ,エルンスト・ストッツナー,スルジャン・トドロヴィッチ,
ミリャナ・カラノヴィッチ

時間: 171分 (2時間51分)
製作年: 1995年/ブルガリア・チェコ・フランス・ドイツ・ハンガリー・ユーゴスラビア(セルビア)

(満足度:☆☆☆☆☆)(5個で満点)
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"マルコ"
(ミキ・マノイロヴィッチ):

・いち早く"知った"男。自ら大罪を背負う道を選ぶ。

"クロ"(ラザル・リストフスキー):
・知らなかった男。ファシストを憎み、やがて憎しみの権化となる。

"ナタリア"(ミリャナ・ヤコヴィッチ):
・"女"であるこことに正直に生きた美しき、そして哀しい女性。

"イヴァン"(スラヴコ・スティマチ):
・誰よりも世界を信じ、誰よりも深く裏切られる。劇中で恐らく、最も悲劇的な
人生を送る。

"ヨヴァン"(スルジャン・トドロヴィッチ):
・『アンダーグラウンド』で生を受ける。太陽を見たことのない哀しい男。

 カメラの視点がユニークである。見事な群像劇を描きながらも誰にも決して近寄る
ことはない。誰の心象にも一切寄り添うことなく、突き放し、冷厳にひたすら地上で、
地下で蠢く人間共を追い続ける。

 『アンダーグラウンド』の住人は世界へ出て行こうとしない。

 『世界』を知らないだけではなく、「知ろうとしない」のだ。


 知ろうとしないゆえに、観客は彼らに共感する間もなく、その顛末は悲劇ではなく
滑稽さに満ちている。そして、憐れな彼らを嗤いそうになるその瞬間に我々は思い知り、
心臓が止まるほどのショックを受ける。
 

 自分達も『アンダーグラウンド』の住人に過ぎないということに。

 自分達は"彼ら"と寸分違わずに世界を知らないだけではなく、

 「知ろうともしない」のだということに。
 

 シニカルで世渡り上手過ぎるゆえに破滅を向えるマルコも、 

 ファシストそのものと化していることに微塵の疑いも持たないクロも、

 調子のいい、魅力的な女性ナタリアも、

 純粋ゆえに全ての不幸を背負ってしまうイヴァンも、

 可哀相なヨヴァンも、 

 登場人物隊のそれぞれのどこかが、自分達自身であるということに。

 とっくに戦争が(一時的に)終わった世界で『アンダーグラウンド』の住人達を
登場人物にした映画が、地下で暮らす"本人"達に知られることなく撮られていくという
脚本が絶妙過ぎる。

 後半の展開は人間の歴史とデジャブそのままに同じ人類(=自分)を殺していく
マクロ的な視点に観客を一気に突き飛ばしていくことに成功する。とても危険な
魅惑的・悪魔的な技だ。

 私たちは殺戮シーンで何度も声を上げて嗤うことになる。

 人が死んでいくという事実の過程がデタラメであるならば、我々人間は、
哀しいという感情は残念ながら持てないのだ。

 "信"を持つ男イヴァンを演じたスラヴコ・スティマチが冒頭から最後まで、とても
素晴らしい。

 恐らく主要な登場人物の中で唯一イヴァンだけが

『他者と自分とが、関係のある"系"の中にいる』

ということを理解して、彼は身勝手な人間共に翻弄され続けながら自分以外の世界の
破滅に対して何度も何度も涙を流すことになる。やがって彼はそれ以外何もできない
男となる。

 マルコを演じたミキ・マノイロヴィッチもまた素晴らしい。滑稽さと残忍さと狡猾さが
嫌味なく混在したマルコという"大悪党"を一個の人間としてきちんと"創造"している。

 今後も再評価され続け、その評価は上がり続ける作品であろう。
フィルムを永遠に遺していって欲しい作品の一つ。

 
 もし、本作のフィルムが消失してしまったとしたら、

 現代社会は崩壊する時ではなかろうかと本気で思う
 

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