映画「隠された記憶」
「隠された記憶」
CACHE(HIDDEN)
監督: ミヒャエル・ハネケ
脚本: ミヒャエル・ハネケ
撮影: クリスティアン・ベルガー
編集: ミシェル・ハドゥスー,ナディン・ミュズ
プロダクションデザイン: エマニュエル・ド・ショヴィニ,クリストフ・カンター
衣装デザイン: リジー・クリストル
出演: ダニエル・オートゥイユ,ジュリエット・ビノシュ,モーリス・ベニシュー,
アニー・ジラルド,ベルナール・ル・コク,ワリッド・アフキール,レスター・マクドンスキ
時間: 119分 (1時間59分) [PG-12]
製作年: 2005年/フランス,オーストリア,ドイツ,イタリア
(満足度:☆☆☆☆☆)(5個で満点)
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一見、何の変哲もないどこにでもありそうな住宅街の映像。どこかで見たような
家族が出入りしている。そして一人の男が出てくるが、それは自分自身の姿で
住宅は自分の家だった。やがて自宅正面を撮ったビデオだけでなく、一枚の葉書も
男だけでなく妻と子供にも送られてくる。。
「記憶の断片が風化」して、ごく普通に生きている人生に成功した男。
"恐怖"の矛先を点と点を繋いで"線"にして浮かび上がった「像」に向けて
振り下ろす。
「殺られる前に(殺られそうだから)、殺す。」
「殴られる前に(殴られそうだから)、殴る。」
本当に相手に殺意があったかどうか、敵意があったのかどうか。
そんな事はどうだっていい。
まるで、脆弱極まる大儀を振りかざして大殺戮が行われたいつか、どこかで、
いつも、どこででも起こっている戦争を見るような気持ち悪さがあって、その気持ち
悪さは絵空事ではなく、大なり小なり誰でも持っている原罪のようなものでもあって
一瞬たりとも主人公から目が離せなかった。
主人公の誰にも見せない、見せる必要の無い(と信じ込んでいる)不安が全ての
出発点であり、そこから全ての事象が起こっていることに気付くまで主人公は
多くの物と人を失っていく。
それは、「人生そのもの」なのだから、主人公が捜す対象自体が原因ではない
という『恐るべき事実』に観客はやがて恐怖する。
妻は"愛"が失われた瞬間から理解できない赤の他人となり、血を分けたはずの
子供は絆が揺らいだ瞬間からモンスターのようにも見えてくる。
自分の見えている対象が自分の考えている内在するに過ぎない何かと一致すると
思い込んだ時に、悲劇は際限なく広がっていく。
まるで、制御できなくなった原子炉の炉心のように。
個人の生活臭の染み付いた"自宅","リビング","キッチン"他者にとってはどこまでも
おぞましい、息苦しい、居心地の悪いだけの場所を招かれざる隣人から見たそのままの
臨場感で描いているのは何気に凄い技術だ。
撮影はほぼ完璧といっていい。全てが適確で本当の世界そのままに構築されて
撮っている方も演じているもさぞ楽しいエキサイティングな現場だったのではなかろうか
と思う。
後半のエスカレーターのシーンは映画撮影を志す人間ならば一度は撮ってみたい
映像なのではないだろうか。こちらも楽しんで撮っているのが手に取るように判る。
しかも完璧でクールな出来。
妻役の女優さんが等身大の妻であり、女を演じていて成熟したエロスもあってとても
素晴らしい。
誰もが"モンスター"を心の内に飼っていて、誰もが心を食い破って外に出てこない
ようにその"モンスター"を必死に宥めて生きている。
「"疾しい"とはどういうことか知りたくて来ただけです。
そして、それが何なのかよく解った。」
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