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2016年10月30日 (日)

映画「偶然」

「偶然」
PRZYPADEK
BLIND CHANCE

 

監督: クシシュトフ・ケシェロフスキ
出演: ボグスワフ・リンダ,タデウシュ・ウォムニツキ,Z・ザパシェビッチ

時間: 122分 (2時間2分)
製作年: 1982年/ポーランド

(満足度:☆☆☆☆)(5個で満点)
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1) 「使命感に燃え」休学した主人公は、ギリギリのギリギリで列車に乗り込み、
党中央部でバリバリ活躍し、将来を約束されたに見えたが、地下組織の一員
である恋人が逮捕されて、自身も追われることに。。

2) 「使命感に燃え」休学した主人公は、ギリギリのギリギリで列車に乗り損ね、
駅員に乱暴を働き逮捕される。懲罰活動から地下組織の人間と懇意になり
加担するが、思想の為には手段を選ばない"彼ら"のやり方に同調できずに
孤立していく。。

3) 「使命感に燃え」休学した主人公は、ギリギリのギリギリで列車に乗り損ねた
ことで馴染みの女性と再会し、復学を果たす。学業も恋も順調に実り、そのまま
結婚し、医者となり美しい妻と子供と共に何不自由ない暮らしを楽しむ。ある日、
恩師から、海外での講演の代行を依頼され、 「使命感に燃え」た主人公は、
即決する。。
 
 
 冒頭の病院での暴動シーンや、無意味にリアル過ぎる解剖シーン("本物"を
使用している?)、主人公の行動と発言のオブラートしないあからさまな党の内情
(権力争いの巣)の暴露と、批判と、上映禁止もやむを得ないと見ていて思う。

 内容が「過激で"体制にとって都合が悪い"」というよりも、若さゆえの不器用な
確信犯的な挑戦状になっているように思え、 後年のクシシュトフ・ケシェロフスキの
磨かれ、無駄を削ぎ落とした諸作品から思うと、映画としても、間延びしていて
方向性が絞れていないように思う。だが、その爆発するエネルギーと勢いには
どこか"情熱をフィルムに焼き続けた"ある種トリュフォーを思わせる好ましさも
感じる。

 そもそも、本作の主人公には「魅力」が欠けている。

 その明晰な頭脳と機転の速さを、体制側にも反体制側にも中道の道にも最終的に
活かせないのは、どちらの集団も結局は巧妙な利己的集団であるという指摘は
出来ているが、主人公に揺るがない"信条"が見えないので、主人公もまた、
保身の為に右往左往しているように見えてしまい、そのことが作品に悪い意味で
コミカルさを与えてしまっていないか。

 しかし、だからこそこの作品には

『体制・反体制のどっちにも、ついていけない』

という真の苦悩が描かれているともいえるだろう。

 ケシェロフスキが恐らく、ある時期から終生、脳裏を離れなかった苛立ちでは
なかろうか。あるいは、タルコフスキーもソビエトに同様の気持ちを持ったのでは
ないか。二人ともその苦悩に飲み込まれてしまうように、余りにも若くして命の
エネルギーが尽きている。命を削るようにしてフィルムに何事かを焼き付けた
という点でも似ている。

 ラストはポーランド人の歴史的苦悩(西側・東側のどちらについてもこっ酷く裏切
られてきた歴史)さながらに"千切れて"いく。

 どのパターンにおいても袋小路に陥る主人公の悶絶ぶりにケシェロフスキの苦悩の
深さと彼が50代という映画監督としては余りにも早く逝かねばならなかったポーランド
という国の運命の悲しさを思う。本作の主人公のあっけらかんと縦横に動きまわる様を
観ているとケシェロフスキは寧ろ、楽観的なアクション映画やコメディ作品でも十分に
その才能を開花させただろうとも思わせる。

 三つの未来のどれを行っても主人公は主人公でしかないのか。ポーランド自体の
歴史を思わせ、ケシェロフスキ自身の選択の苦しさをも垣間見える。

 

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