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2017年1月 7日 (土)

映画「不審者」

「不審者」
THE PROWLER

監督: ジョセフ・ロージー
原案: ロバート・ソーレン,ハンス・ウィルヘルム
脚本: ダルトン・トランボ,ヒューゴ・バトラー
撮影: アーサー・C・ミラー
編集: ポール・ウェザーワックス
音楽: リン・マーレイ
出演: イヴリン・キース,ヴァン・ヘフリン,ジョン・マクスウェル,
キャサリン・ウォーレン,エマーソン・トリーシー,マッジ・ブレイク,
ウィートン・チャンバース

時間: 92分 (1時間32分)
製作年: 1952年/アメリカ

(満足度:☆☆☆☆)(5個で満点)
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人気DJを夫に持ち豪邸に住む元女優の妻。不審者が侵入したと警察に通報する。
駆けつけた二人の警官の一人は、女の美貌と豪華な暮らしぶりに羨望を抱く。
数日後、男は"警護の名目"で女の下を再び訪ねる。。

 

 「ブラック」が作品全体を覆い、「ユーモア」を駆逐している。その圧倒的なまでの
エゴイズムそのものが一周して、逆にユーモアを生み出し、不快な失笑を誘う

 さらに、観客という装置を経て、何かしらの感情が生む出されるように意図されて
いることに本作の「のんべんだらりんと作られているわけではない価値」がある
ように思う。

 「悪意」で動いていく主人公を延々と見続けなくてはならない"物語"と"映画"という
「拷問」としても機能する「儀式」を楽しむのが本作の作法のように思う。

 主人公の卑劣な男は、男のズルさと弱さをどこまでも体現している。
  

 職権を身の安全が保たれる極限まで悪用し、女の弱さも計算ずくの上で徹底的に
悪用していく。観客の多くはきっと主役の男と同等の「スタート地点」くらいまでは立った
ことがあるだろうし、実際に立ったことなどないと豪語する清廉潔白の紳士、痴女で
あっても「思ったこともない」などと言える人は恐らく皆無だろう。

 "愛"の力で女性を獲得していくのではなく、警察という本来は善の側にいる大前提を
フル活用して冷酷に女を崖っぷちに追い込んでいく。崖下でニコヤカに腕を広げて
待っている男の笑顔を女は深く疑いながらも下地にはきっと僅かでもあるであろう愛を
信じて男の中に飛び込んでいく。

 男は、どこで、道を間違えたのだろう。

 女は、何を見誤ったのか。

 冒頭のシーンから最後まで警察の制服がナチスのそれと完全に同一のものと見える
のも製作者サイドの明確な意図であり、奏効している。
 

 我々は何を見誤っているのだろうか?

 いや、正しく認識して行使しているものなど日常にあるのだろうか?

 ファッシズムは遠ざかり、民主主義は成熟している?

 封建主義やレイシズムは過去の遺物となったか?

 逆じゃないのか?

 より高度にシステマチックになり、我々の知覚能力では感知できなくなって
いるだけではないのか?

 人間の心の闇、決して小さくはないエアポケットを誇張することなく、明け透けに
見せているが故に問題作である。

 監督のジョセフ・ロージーは本作制作の翌年、赤狩りによりアメリカを去り、
イギリスに亡命した。

 脚本担当の一人、ダルトン・トランボは赤狩りに抵抗した"ハリウッド・テン"の
一人であり、本作にはクレジットされていない。

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