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2017年1月 8日 (日)

映画「香華」

「香華」

原作: 有吉佐和子
監督: 木下恵介
脚本: 木下恵介
撮影: 楠田浩之
音楽: 木下忠司
美術: 伊藤憙朔,梅田千代夫
出演: 岡田茉莉子,加藤剛,三木のり平,乙羽信子,岡田英次,柳永二郎,菅原文太

時間: 202分 (2時間22分)
製作年: 1964年/日本

(満足度:☆☆☆☆)(5個で満点)
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 嫁入りの行列が"二○三高地陥落"の速報で沸き立つ場面からこの長編物語は
幕を開ける。

・関東大震災
・太平洋戦争
・戦後の復興
・世代の断絶

といったいずれも骨太なテーマを適確な構図と見事な美術で"魅せて"いく。

 まずは、冒頭の田中絹代と乙羽信子の演技合戦が溜飲を下げる。
幾多の作品、多くの名匠の下で鍛え上げてきた田中絹代に軍配を上げたいところだ。

 勝手気ままな娘への激怒絶叫上手いなあ

 乙羽信子演じる奔放に生きる女郁代と子役のぶつかり合いも見応え充分。
子役は、よほど適確な演技指導を受けたのか素質があるのか襖の開け閉めや、
お茶の入れ方などの細かい所作が行届いており演技を超えた筋目の良さがとても
心地いい。

 秀作・傑作の作品には細部に神が宿り給う。

 四季折々で変化していく日本家屋の様々な表情の変化も見事であり、まるでセット
全体が優れたスタッフワークに笑顔を見せているかのような悦びを画面から感じる。

 美術監督の伊藤憙朔(いとうきさく)が手掛けている作品「雁」(1953)、「山椒大夫」(1954)
なども、本作同様または、それ以上に美術セットの存在の当たり前の自然さと美しさ
が実に見事であり作品の大きな見どころと言っても過言ではない

 娘の朋子は、厳しく仕込まれてやがて美しい娘へと成長するが、自由気ままに生きる
母の郁代にその人生は振り回されていく。

 主演の岡田茉莉子は、気丈で挫けないキャラクター朋子を好演していて、物語が
進むことに乙羽との呼吸も合ってきて、その掛け合いはよりユーモラスになり、後半は
本当の親子を見ているようなかなり自然な呼吸になっている。終戦直後の焼け跡の
シーンでの乙羽と岡田の二人の食事のシーンは「生きること」そのものの賛歌に彩られた
うえでの笑いがこみ上げられずにはおかない名シーンだ。

関東大震災
戦局の悪化による空襲

いずれも数十秒の短いシーンであるがミニチュアのセットと合成を適確に作成していて
物語とのシンクロの高さにおいて非常に見応えがある。

 本作のクライマックスシーンは、朋子が惚れた軍人の男(加藤剛)が戦犯とされ、
本当の家族に紛れて会いに往くシーンであるが、朋子の眼を通してという不自然さは
否めないもの、本質的には不当であるが為すすべもなく処刑を待つ人間の地獄
を正鵠に射て描写していると思う。

 B級,C級戦犯という歴史上の重いテーマと事実について、後続の邦画界の人間達は
今後も果敢に挑んでいくべきであると思う。

 富を得るという点においては成功した朋子

 一方で、娘を筆頭にして多くの人間に迷惑を掛けるだけかけたが、人生を貪欲に
生き抜き、命を燃やし尽くした母、郁代

 朋子は、そんな母をいつしか赦し、羨ましく思う

 戦後の日本と日本人。『戦争だったから』という理由の下にとても大切なものも一緒に
押し流していこうとする巨大な濁流の不気味さを感じさせるラスト。

 そして、物語も、プロットも超えて、本作そのものが、決定的な時代の分水嶺となった
60年代中葉を象徴している『ある空気』を図らずも放っている。

 美しい旅館の風景とは裏腹に。
 
 
 因みにタイトルの"香華(こうげ)"とは仏前に供えるお香と花とを指す言葉とのこと。
 
 
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