映画「ウルトラQ ザ・ムービー 星の伝説」
「ウルトラQ ザ・ムービー 星の伝説」
監督: 実相寺昭雄
脚本: 佐々木守
撮影: 中堀正夫
音楽: 石井眞木
美術: 水野伸一
編集: 井上治
怪獣デザイン: 池谷仙克
視覚効果: 中野稔
特技 撮影: 大岡新一
特技 美術: 藤田泰男
特技監督: 大木淳吉
アクション: 深沢政雄土
出演: 堀内正美,柴俊夫,荻野目慶子,風見しんご,高樹澪,中山仁,寺田農,山内としお,
小林昭二,毒蝮三太夫,深沢政雄
時間: 106分 (1時間46分)
製作年: 1990年/日本
(満足度:☆☆☆☆)(5個で満点)
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遺跡の発掘現場で起こる連続殺人事件。遺跡の特別番組を制作していた
ディレクターの浜野(堀内正美)は、取材を進めるうちに失踪する。局員仲間の
万城(柴俊夫)達は、浜野を捜す過程で古代の世界に迷いこんでいく。。
『怪獣映画』とは何か?
「怪獣が登場することに必然性のあるドラマ」とは?
という本質的な問いを真摯に投げかけ、作品の完成によって、その解に
立ち向かおうとする誠実な姿勢が世界観全体の系の構築として感じられ、
本作を"熱いもの"にしていると思う。
高樹澪演じる真弓と、万城、浜野との三角関係の微妙さと、真弓の故郷を
完全に失った人間の虚しさと、地球人へのやるせなさがドラマを牽引し、随所に
感じられる実相寺昭雄の「美」の追及が作品全体を覆うことで万華鏡のような
幻惑的な雰囲気を作品に与えている。
だが、佐々木守(ささきまもる)の脚本は、90年という制作年当時としての
世相としてやむをえないのであろうが、開発=悪というスタンスのバイアスが
今という相対化が進む時代から見るといささか濃過ぎることが作品の"速度"
を減じてしまっている。
浜野は、当初はテレビ番組制作への熱意から古代の世界へと没頭していく。
やがて取材の対象が自分のルーツと密接していることに気付き「現代人」から
率先して脱却していく。一方、万城は、あくまでもテレビ制作会社の一社員という
立ち位置から真弓という女性に惹かれていく。真弓は、過去への敬意を忘れた
人間達へ警鐘する立場と、万城と浜野という男達の間で揺れる。
惜しいのは、これらのファクターが「怪獣映画」という世界観の中で相乗効果を
それなりに果たしながらも、"点"として忙しく展開してしまっていることだろう。
作品全体としてのセールスポイントをまとめるには難があり、公開当時に興行的
には失敗したのも残念ながら頷けるところだ。実際、当時の自分もこの作品の
"売り"が今イチ見えてこないので鑑賞をスルーした。
古代遺跡の破壊とそれ自体が悪だという理由を、単に土地開発という側面から
時系列に展開していくのも当時の世相を反映してはいるが、そういった一時期の
トレンドとも言える問題提起はテーマの背後にもっと隠して、人間という集団の
無目的で無軌道な衝動の結果として達観して捉え、真弓と浜野をナビゲーター
として物語をじっくりと進めていければさらに傑作になったのではなかろうか。
"大トリ"の怪獣薙羅(ナギラ)は、実に怪獣らしく過ぎ去って逝った人間の「哀しみ」と
「怒り」、「憎しみ」といった業を背負い、暴れまくる。クライマックスでの暴れっぷりは
暁闇という魔法の時間帯と、セットと合成が違和感なく繋がれていてとても美しい。
その演出と、破壊のバランスの良さは、不朽の名作「ゴジラ」(1954)での幾つかの
シーンを連想させた。
スタッフも原点回帰しようと充分に気を使っているのではと思われる出来だ。
今後、再発見・再評価されていくであろう作品。
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