映画「セコーカス・セブン」
「セコーカス・セブン」
RETURN OF THE SECAUCUS 7
監督: ジョン・セイルズ
脚本: ジョン・セイルズ
撮影: オースティン・デ・ブッシュ
音楽: メイソン・ダーリング
出演: ブルース・マクドナルド,マギー・レンジー,マーク・アーノット,
ゴードン・クラップ,マギー・クージノ・アーント,デヴィッド・ストラザーン
時間: 106分 (1時間46分)
製作年: 1980年/アメリカ
(満足度:☆☆☆☆☆)(5個で満点)
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60年代という"かつて"。青春と、"政治の季節"を謳歌し、友人から借りた車で
ワシントン・D・Cまでの平和行進を強行してセコーカスで共に逮捕された七人の男女
「セコーカス・セブン」は中年に差し掛かり、久しぶりに再会を果たす。。
『再会するということの全て』をパーフェクトに描いている逸品。
互いの近況について表向きはフランクに、内心では周到に言葉を選び、やがて
政治・経済の見解をぶつけ、お互いの過去と未来について語り合い三十路を
過ぎた彼らには子供もなく夫婦仲や恋人間の関係が誰しも良好でないことを悟り、
「安心」し、そして「落ち込む」。
中盤での野郎共のバスケットボールのシーンがやたらと長い。5分くらいもあろうか。
だが、実は同じシーンの繰り返しに見えて、男達は互いの位置関係を確認し合う
ボディランゲージそのもの。
渓谷での他愛無い水浴びのシーン、バーベキューのシーンもやはり繰り返しが
多用されるが、少しづつ変化があり起承転結とユーモアがきちんとある。
何気ないシーンを繰り返し描写することで、物語の進展そのものよりも、登場人物
達のキャラクターが浮かび上がってくるのはあるいは小津作品から学んでいるのか。
監督は小津を観ていたか、どうか。
倦怠期もとっくに過ぎて冷め切っていた夫婦が一夜の過ちを契機に破綻する
くらいで大きなドラマは結果的には起きない。中年に差し掛かり田舎で暮らす
長い付き合いの男女、、誰も経済的に成功していない。
お互いがお互いのパートナーと短気に長期に、浅く、深く、関係を持ち、今は自分達と
全く同じく異性のことか自分自身のことにしか興味がなかった若者達を憂う。
若さをまだ少しは残している彼らの関係はいつどの瞬間にも大崩壊を来たしても
何もおかしくはない。
その方が普通だろう。
60年代という政治の季節を共に過ごした「セコーカス・セブン」達は互いに
チキンレースと、和解を繰り返す。
いかに親しくても、愛し合ったとしても、何時間お喋りをしようとも、
『人間は孤独である』という真実を本作は正しく描いている。
監督のジョン・セイルズは、ロジャーコーマンの下で脚本家として腕を磨き、
本作は、そこで得た資金を元手に制作されている。ロン・ハワード監督の秀作
「アポロ13」(1995)ではクレジット無しではあるが脚本家として参加している。
2017年現在66才であるが、監督業としてはまだまだいける年齢であり、今後の
活躍と新作が待たれるところである。
描きたいことが製作者の意図をも超えて充分に描かれているであろう稀有な作品。
そして、「映画とは何か」ということの答えの一つを提示している傑作。
「描く」とは一体どういうことなのかを。
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