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2017年7月15日 (土)

映画「古都」

「古都」
 
原作: 川端康成
監督: 中村登
脚本: 権藤利英(井手俊郎)
撮影: 成島東一郎
音楽: 武満徹
美術: 大角純一
出演: 岩下志麻,吉田輝雄,早川保,長門裕之,環三千世,中村芳子,
宮口精二,東野英治郎,浪花千栄子

時間: 105分 (1時間45分)
製作年: 1963年/日本 松竹

(満足度:☆☆☆☆☆)(5個で満点)
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 呉服問屋の一人娘千重子(岩下志麻)は、自分が捨て子なのではないかと漠然とした
疑いと不安を持って生きている。初夏の日、友人と郊外に出かけると自分とそっくりな
娘を見かける。祇園の夜、八坂神社で願を掛けているその娘を千重子は再び見かけ
話しかける。。
 

 まずはオープニングの映像と音楽が秀逸。本作の主役ともいえる 「古都」を
象徴するアイテムの一つ町家の佇まいを捉え、そして、人心の複雑さを描いた
物語がこれから展開されていくことを告げる武満徹の奏でる「音」。

 キャスティングが良い。主役で二役を演じる岩下志麻の元々持つ清楚さと
人間としての真っすぐさ、生活環境と生い立ちの違いを想像させる性格の異なる
人間像の演じ分け。

 宮口精二も京男を好演している。東京都出身の宮口がどのようにリサーチし
演技を組み立てているのかを考えながら観るのも本作の大きな味わいどころ
だろう。そして、構築の手順や立体感がきちんと見えるからこそ宮口は名優なのだ。

 監督の中村登の諸作品は、端正な演出からか「映画の教科書」と呼ばれたとの
ことであるが、本作もその評に相応しい出来栄えである。

 川端康成の原作、権藤利英の脚本、中村登の演出、武満徹の音楽、
成島東一郎の撮影、大角純一の美術、俳優達、、

 アンサンブルと呼ぶに相応しい仕事振りであり、その「合唱」は、『古都』の
ある側面を如実に浮かび上がらせていく。

 一人は、古都の中心で生き、悩み、

 一人は、古都の片隅で生き、悩み、

 二人は、出会い、接近し、束の間の悦びを得、苦しみを分かち合おうとする。

 生きて、羨望し、やがて、ある事を知る。

 生きることの悦びと苦しみとは、一体何なのかを。

 宮口精二演じる千重子の父も、浪花千栄子演じる女将も、長門裕之演じる
若者も、芸者の娘も、ある意味においては皆同じである。

 中村登は、映画という文体を巧みに駆使して、"それ"を表現しようとしている
のだろう。

 本作は、1963年の作品であるが第36回アカデミー賞外国語映画賞にノミネート
されている。因みに同賞の受賞作品は、フェデリコ・フェリーニの"あの"「8 1/2」
ある。また、キネマ旬報ベストテンにおいては本作は圏外の13位とのこと。

 一つの沸点を向かえた時期を思えば、むべなるかなというところではある。 

 広大で深淵なる歴史を持つ街と、そこで生きる人の心の機微の両方をバランス良く、
そして巧みに表現している作品である。

 今後、何度も発掘され、再評価され続けていく作品だろう。

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