映画「夏の妹」
「夏の妹」
監督: 大島渚
脚本: 田村孟,佐々木守,大島渚
撮影: 吉岡康弘
音楽: 武満徹
美術: 戸田重昌
編集: 浦岡敬一
出演: 栗田ひろみ,石橋正次,りりィ,小松方正,小山明子,戸浦六宏,
殿山泰司,佐藤慶
時間: 96分 (1時間36分)
製作年: 1972年/日本 創造社,日本ATG
(満足度:☆☆☆☆+)(5個で満点)
------------------------------------------------------------
ミドルティーンの菊地素直子(栗田ひろみ)は、手紙でしか知らない"大村"という
男性に会うために夏休みの旅行で沖縄に降り立つ。大村を捜す過程で
素直子は、自分の父の人間関係の因果の中を彷徨う。。
沖縄返還の文字通り直後(1972年5月に返還)の沖縄の陽光と、吉岡康弘の
撮影、武満徹の郷愁を強く誘う音楽、俳優・スタッフの全盛期を迎えたとも
言える「大島組」の陣容の力強さと『戦後世界を生きる我々』という強い自負、
素直子を演じる主演の栗田ひろみ(当時15才)と謎の青年大村鶴男を演じる
石橋正次(当時25才)の小松方正、佐藤慶等「大人達」に向けられた挑発と
「理由なき反抗」。。
傑作は、幾重ものファクターが時には監督の意図を遥かに超えてキルトの
ように織りなす。本作はその好例だろう。
既にベテランの域である殿山泰司演じる桜田拓三は「ある男を殺しに来た。」
と真剣な顔で宣う。殺される(はずの)側の男、戸浦六宏演じる照屋林徳は
異様な緊張感で桜田と正対する。
石橋正次の演じる青年大村鶴男は全くの根無し草のように生きている。
終戦間際に生まれた世代として、大人達や世相というものに不信を持っている
こととも無関係ではない。
安保闘争が終わり、ベトナム戦争の終焉の制作時に壮年期を迎えた
監督の大島渚と佐藤慶や小松方正等とその上の世代の「何があって今が
あるのか知っている」殿山の世代、終戦の混乱期に生を受けた石橋の世代、
それらの混濁の境界も見えにくくなった『最早、戦後ではない』以降の
菊地素直子を演じる栗田ひろみ。そして、日本に復帰したての『沖縄』。
地層に刻まれた年代別のように思考の基底の何もかもが異なる登場人物達の
言動の一瞬、一瞬の凄まじい緊張感と、沖縄でオール・ロケされたことの
絶大な効果と神懸かった融合を果たしている。ナビゲーターを努める素直子と
共に大島渚と田村孟、佐々木守が描く「人間地獄」の世界をスキューバ
ダイビングをするかのような、あるいは、お化け屋敷にでも入っていくかの
ようなある種の興奮がある。
全てが一点に集約されていくラストは、まるで公開裁判そのもののとなる。
それは、大島の諸作品にも繋がるワームホールのようなものでもあるのか。
大島達の世代にとって、人というのは実にいい加減な存在であり、
(その証明が戦争という"結果"であり)、その対極に位置するものが或いは
法なのであろうか。
大戦は『法』というものの延長線上において起き、逆に法も人間社会も
侵食され尽くした。その後の世界の奇蹟的な復興と、大島世代の「政治運動」
「言動」「権利(責任は?)」といった極めて重要なファクターを決定的に
ほとんど絶対的に担保するものまた『法』である。
残念なのは、桜田拓三と照屋林徳の言動に対して、フォーカスをもっと
合わせるべきだったことであろうか。脚本担当が三人であり、三人とも、
実績も実力も確かで演算された結果の作品であることとも関係しているの
だろうか。
そして、結局、極めて重大と思える言葉が提示されながらも
「果たされない約束」
であることもまた大島渚とある時代を象徴しているとも言える。
長く続いた暴風は去り、穏やかな陽の光と「開かれた扉」そのものである
魅力と清々しさに満ちた作品。その扉の向こうまでを描く責を本作の時点で
負わせるのは酷なのかもしれない。
光が射した繁栄の時代から半世紀が過ぎようとする今、その扉を超えて
語っていい時であり、語るべき時でもあるのかもしれない。
尚、劇中で余りにも唐突に唄われる"シルバー仮面の歌"「故郷は地球」は
公開年の前年から放送されたテレビドラマの主題歌で佐々木守が脚本を
担当して深く関与している為の遊びであるが、大村鶴男を演じた石橋正次は
「シルバー仮面」の後継番組「アイアンキング」に出演する条件として佐々木守が
全話の脚本を担当することを条件としたとのこと。石橋正次は当時アイドル並み
の人気を誇ったとのことであるが、本作においてもその出番と役柄の重要性に
反して台詞は極端に少ないが光っていてラストにおいても冗長な大島組の
実力派俳優達に負けていないどころか場をさらっている。長期に活躍出来た
だけの力を本作においても見せつけている。
[沖縄返還]
================================================================
沖縄返還(おきなわへんかん)は、1972年(昭和47年)5月15日に、
沖縄(琉球諸島及び大東諸島)の施政権がアメリカ合衆国から日本国に
返還されたことを指す。日本国とアメリカ合衆国との間で署名された協定の
正式名称は「琉球諸島及び大東諸島に関する日本国とアメリカ合衆国
との間の協定」である。 日本の法令用語としては、沖縄の復帰(おきなわの
ふっき)という。
================================================================
(ウィキペディア日本語版)[2017年9月10日 (日) 15:46 UTC]
---------------------------------------------------------------
映画感想一覧>>
| 固定リンク
「映画」カテゴリの記事
- 映画と賞を取ることについて関係性における独り言(2021.05.02)
- 映画「ジョーカー」(2020.12.09)
- 映画「魂のゆくえ」(2020.07.24)
- 映画「愛の渇き」(2020.05.01)
- 特撮映画における或る命題について(2020.04.29)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント