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2018年2月10日 (土)

映画「11・25自決の日 三島由紀夫と若者たち」

「11・25自決の日 三島由紀夫と若者たち」

製作: 若松孝二
企画: 若松孝二
企画協力: 鈴木邦男
監督: 若松孝二
脚本: 掛川正幸,若松孝二
撮影: 辻智彦,満若勇咲
衣裳: 宮本まさ江
編集: 坂本久美子
キャスティング: 小林良二
音楽: 板橋文夫
音楽プロデューサー: 高護
照明: 大久保礼司
録音: 宋晋瑞
出演: 井浦新,満島真之介,タモト清嵐,岩間天嗣,永岡佑,鈴之助,渋川清彦,
大西信満,地曵豪,中泉英雄,橋本一郎,平野勇樹,鈴木信二,落合モトキ

時間: 119分 (1時間59分)
製作年: 2011年/日本

(満足度:☆☆☆☆+)(5個で満点)
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 三島由紀夫(1925-1970)と最期を共にした森田必勝(1945-1970)が
「どこまで、どのように」描かれているのか気になっていたのが鑑賞の理由と
目的の一つだったが、影の主役と言っても過言ではない"準主役以上"の扱い
に満足。

 演じた満島真之介goodjob。

 企画協力の名目でクレジットされている鈴木邦男によると、監督の若松孝二も
実際の森田必勝を高く評価していたらしい。

 三島由紀夫は、天皇体制下において"天皇に直結する国軍"を想定した人間で
あったが(真意の所は本人でないと勿論判らない)、若松孝二は、その『衝動』を
描くということで若松自身は"左側"に位置する人間としては矛盾せず、描かれた
三島由紀夫と若松監督のエネルギー成分としての親和性は高く、誹謗にも中傷に
堕ちない作品にすることに成功したことは評価したい。

 井浦新の三島も期待通り、自身の手でよく解釈されていて一瞬一瞬のシーンに
気合いと丁寧さが感じられてとても良かった。

 三島の「躊躇い」。

 結果として現実に「流される」三島

 「敗れていく」三島

 実像の側面の一つに迫っていたのではなかろうか。


 そして、「三島由紀夫と若者たち」は"行動"していく。

 

・自衛隊に体験入隊する"平岡公威"。

・自衛官との飲みの席で理解を得られぬ三島。

・学生運動に対する民族派として抵抗する森田必勝。

・東大で学生と論争する三島。

・楯の会結成 民兵・指揮官の要請。

・新宿暴動で出動しない自衛隊と楯の会。

・部下の脱退。

・頑なになっていく森田に「引っ張られ」ていく三島。

・三島の、"仲間"との「一体感(安心感?)」。

・三島・森田以外の、"師"との距離感の近さゆえの「失望感」。

  

 全体として音楽も良い。

 だが、終盤における四季の風景のインサートについては多分"違う"。何となく
三島らしくないような気がする。
 

 いや、らしくないからこそ、"らしい"のかもしれない。
 

 井浦新の演出方法と、三島由紀夫というキャラクターの相性は良い。

 客観化し、さらにそこへの解釈を表現することを"抑える"ことにより、人物造形に
余韻が生まれる。

 井浦新は、多分、三島を最終決定の最後のキックが弱い人間として解釈し、
それが敗北に繋がっていると捉えているのではと思える。

 「現実という濁流」の前になぜか不思議とすら思えるほどに"常に"後手に回って
いく三島を演じることに成功している。
 

最後の演説も、ただ素晴らしい。邦画史に残る名シーンとなった。

 世界的な評価と名声を確立した文学者が"本気"で相手に訴え、懇願することの
哀しさ。

 序盤における自衛隊への体験入隊シーンで走る姿が明らかに不恰好なのは、
三島の運動オンチを揶揄しているのかと思ったが、実は井浦新は本作の
クランクインの二ヶ月前には踵を骨折して入院中だったとか。

 そのせいもあって走りようが無かったのが真相らしいが自分のように
"文学先生"らしさを意図的に演出したのかと解釈した人もいただろう。

 若松孝児二は、左であれ、右であれ、「情熱」を何らかの形にしようとあがき、
もがく人間像そのものを描かせるのは上手のだろう。「キャタピラー」は戦争から
の帰還、戦争という結論に達した世界という、後の世界を解釈したために不快な
作品となった。

 今回も余り上手くいっていないシーンはある。

 妻が富士山の麓でうろちょろするシーンは頂けない。

 また、序盤の自衛隊員との飲みのシーンは、十分にリサーチして描いているのか
どうか判然とせず、往時の空気、背後関係を知らずに戦中・戦前を語る愚と同じで
"否定される三島"ありきの不快なシーンとなっている。

 『問答無用』に"不戦"を貫く様(それは、問答無用に戦略無き無謀な戦いを
強制して人を死地に送る様と同値である)
が不快極まるように三島が敗北した
という未来から降りてきたような某人物の不遜な態度は映画を棄損している。

 良いシーンもある。

「実録・連合赤軍 あさま山荘への道程」(2007)と同じで

 「世の中を変えないといけない」という衝動思い込み

 がテロに走る結果と何も結びつかないことを判らずに社会の一員としての階段を
転がり堕ちていく若者と楯の会に集っていく若者と自ら退路を絶っていく三島の"衝動"
そのもの「自衛隊が決起しないのならば自分達が起つしかない」という論理的な解釈は
置いておいて衝動そのものについては、実に丁寧に描かれていて見応え十分である。

 

・脱会を申し出る特丸の表情と三島の間のシーン。

・最後の演説で憤死するかのような怒り絶頂の森田の表情。

・サラリーマンに堕ちた?自衛隊幹部を叱責する三島。

 三島由紀夫はひたすら敗れ続ける。意図的なのではとすら思えるほどに。

・訓練中に溺れる隊員を間髪入れずに仲間を"救出する森田"と"何もできない三島"。

・部下の徳丸への説得を失敗する三島。

・新宿暴動の展開の読みの浅さ。

・人数をどう配分するのか、不足の事態への対応。

・市谷襲撃計画の無謀さ。

・楯の会から市谷襲撃までどこまで主導的役割があったのか。

・東大で全共闘に「天皇と一言言ってくれれば」と"懇願する"三島は意外性を
誘発する危険をどこまで自認していたのか?

・森田の行動の「想定外」という敗北。

・楯の会の訓練。

・国家体制の変革(革命)を標榜することと、人工的な静謐を望むことの矛盾。

・赤軍の行動に嫉妬に近い焦燥を覚える三島。

・決起の概要について部下に「ダメ出しされる」三島。

・決起後のマスコミへの手紙。
 
・バルコニーでの最後の演説。  

・最後の演説に「マイクを用意しなかった」三島。  

 最初から「敗北しなくてはならない(演説は否定されなくてはならない)」ことを
「織り込み済み」の謎。

・切腹。

 三島と森田の切腹では"作法"は異なる。

 三島の介錯は二度を有し、森田は一回で済んだ。劇中では、森田が介錯を
代わってくれと頼むシーンだけがあり、理由は画面上からはほぼ判らない。

 実際には、腹を過度に斬りすぎた三島の筋肉は激しく硬直していて首の切断が上手く
いかなかったからだと思われる。
    

 それは、「死への緊張」を隠さなかったことを意味する。

 比べて、森田は介錯する側の事を考えて、形式上の腹きりで済ませ、首が体を
離れることを予め考慮した上で体をリラックスさせていた可能性
は「大いにある」。

 さらに、介錯して、その死を眼前で目撃し、そのすぐ後に、自死を選択する者の
死への恐怖の度合いは前者に比ではなく計り知れない。

 もしも、森田が先に切腹して三島が介錯していたら、、 

 人生の最期にして、一期一会唯一絶無の最大の謎を残して三島由紀夫の生は
これを持って『完結』を迎える。

 もしかしたら、最後の演説と、切腹そのものだけは、
三島が 「思い描いた通りの展開」だったのではないか。

 もしも、部下達がマイクを用意していたら?

 もしも、自衛隊に演説が肯定的受け入れられたら?

 三島の決起は『敗北』し肝心要の切腹が意味不明な死になってしまっただろう。

  

 崇高なる意図は、決して理解されず、ひどく嘲笑され、徹底的に敗北し、
僅かな人間(側近)にしか理解できない。

 だからこそ『切腹』は肯定され得るという図式。

 薔薇刑のモデルとなった三島と相似する。

 「自分はともかく、森田の思想を後世に伝えてくれ」

 という三島の言葉は或いは本音だったのかもしれない。

 森田必勝という最愛・最良の弟子に出会わないとしたら三島の晩年はかなり違った
ものになっていたかもしれない。

 市谷への襲撃も、過程も結末も全く違うものになっていただろう。

 三島由紀夫は、エネルギーそのものを体現した稀有な存在だったのかもしれない。

 エネルギーそのものであるから、滑稽なピエロに見えるのか崇高な存在に見えるの
かはそのエネルギーを眺め、「消費する我々」次第である。

 戦後の日本のパラドックスとひずみをここまで喜劇と悲劇の絶妙な中央線を最後の
最後まで"演じた"三島由紀夫は現代社会が続く限り語られ続け、解釈され続け、
情報は追加され続け、更新され続けるだろう。

  

 実在し散り去った稀有な作家の生と、その渦に共に沈んだ一人の"漢"。

 そして、ある種の解釈と共感の下に焼き付けた映像に。

 拍手。





 最期の呟きの言葉は、誰に向けての言葉だったのだろう。 

 或いは、自分自身に言い聞かせた言葉だったのかもしれない。



  
 

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