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2018年4月14日 (土)

映画「コックファイター」

「コックファイター」
Cockfighter


原作: チャールズ・ウィルフォード
監督: モンテ・ヘルマン
脚本: チャールズ・ウィルフォード
撮影: ネストール・アルメンドロス
編集: ルイス・ティーグ
音楽: マイケル・フランクス
出演: ウォーレン・オーツ,ハリー・ディーン・スタントン,ローリー・バード,
トロイ・ドナヒュー,リチャード・B・シャル,エド・ベグリー・Jr,スティーヴ・レイルズバック,
パトリシア・ピアシー,ミリー・パーキンス
 
時間: 84分 (1時間24分)
製作年: 1974年/アメリカ

(満足度:☆☆☆☆)(5個で満点)
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闘鶏に人生を捧げる陽気な男フランク。試合で惨敗を帰し、栄誉あるメダルを
大会で手に入れることを誓うが。。

 

 製作がロジャー・コーマンで、監督が傑作「断絶」(1972)のモンテ・ヘルマンで、
撮影監督が、映画史に遺る奇蹟の叙事詩「天国の日々」(1978)ネストール・
アルメンドロスで本作が記念すべきデビュー作という布陣であれば必ず良い
化学変化・相乗効果が起きているに違いない。

 作品のテーマが『闘鶏』という地味と言えばこれほど地味なマーケティング
としての客層ターゲットを絞れない(あるいはこれほどの狭い絞り込みもない)
テーマであったとしても。

 その上に、主人公はなぜか「絶対に口を聞かない」ことを誓っていて(!)、
その具体的な理由は劇中の中盤まで明かされない(!!)という笑えるほど
「高いハードル」を作って製作されている。

 果たして、相乗効果は如実に「起きて」いた。

 主人公フランク演じるウォーレン・オーツによる"闘鶏ウンチク"のナレーション(!)
は頻繁に入るが、喋れないのでなく、無口でもなく、親や親友の復讐を誓った訳
でもないのに、

 一向に、全く、一語も、全然"喋らない"主人公

で物語が展開していくのは一種異様であるが、プログラムピクチャー規模の作品では
逆に「有り」かもしれないと観ていて思ったり。

 主人公は、喋れないのでなく、無口でもなく、親や親友の復讐を誓った
訳でないのに、一向に、全く、一語も、「喋らない」上に、

 フランクったらば、

 闘鶏に勝利する為ならば恋人にも親友にも迷惑をかけることに何ら躊躇しない。

本来ならば、物語展開の定石としては喋らない上に傍若無人としか思えない
振る舞いから起こるであろう数知れないトラブルと、軋轢と、それらを克服していく
過程での感動なり、和解なり、主人公の精神的葛藤と、成長が描かれていく。。

 はずだが、それは

 コーマン作品であるからして、テーマは勿論"そこ"ではなく、

そもそも"予算"が『絶対的に』許さない。

 赤字を出さないことが信条のコーマンであるから予算が無いものはどこまでも無い。
よって本作は、自ずと人の良さが滲み出るウォーレン・オーツの魅力を最大限に
引き出すこととなり、周囲はウォーレン演じるフランクを理解してあげていかなくて
はならない。

 喋らないフランクに起こりそうなトラブルが起こらない必然性としては、本作が
"アメリカ南部"を舞台にしていることは主要因の一つでように思える。

 闘わせる鶏は"バディ"(相棒)ではない。"消耗品"である。

 試合が済めばあっさり処分されていく。そのことにフランクは躊躇しないし、
当たり前のことだ。

 その背景には巨大な養鶏場飼育システムと市場があり、フランクやライバル達が
闘鶏だけで人生設計を立てようとするのは、養鶏市場が安泰であることの証拠に
他ならない。

 南部は大枠お政治思想は(恐らく)今でも保守的であり、伝統と誇りを重んじ、
新参者には排他の力学が働き、仮に自分達の生活サイクルを根本的に変えようと
するならどれほどの損害も辞さずに"戦う"であろう。

 2016年大統領選挙の結果は、"彼ら"の怒りの想定外の大きさだったことは
記憶に新しいところだ。

 主人公フランクが黙っていても鶏を調達できて、鶏の管理を任せられる"相棒"が
出現して、どんなに迷惑を被っても訴訟などには決して踏み出さない友人達がいる。
それは心優しい人々というよりも、南部という歴史と伝統を無意識に、或いは、
自覚的に共有する人々ではなかろうか。

 本作には"その枠内"より外の人々は一人も出てこない。

 本作の"退屈な点"は、価値感を異にする人々の登場が望めないことと、主人公が
「そのループの中でこそ寡黙でいられること」にあり、逆に本作の魅力でもあり
最後までそれなりに観れるのは、監督モンテ・ヘルマンと脚本家恐らくは演者達は
南部が舞台であることがよくわかっていて作っていることである。

 「闘鶏映画なんて一体誰が観に行くというのだろう。」

 ロジャー・コーマンは自嘲的に述懐しているが、描かれているのが闘鶏であれ
何であれ、そこに存在するであろう価値感を描ければ立派に作品は成立するなのであり、

 本作は、描けている。

だから、これほど地味なテーマもない上に、喩え主人公がとある事情により
喋らなくても"面白い作品"になる。

 ロジャー・コーマンやモンテ・ヘルマンがいなければ、映画という「この世界」の
風景はかなり大きく変わっていたことだろう。「そこ」で暮らす住人はきっと今より
減っていただろう。

 映画を作ることで、"センターではない"エリアを盛り上げたいという人がいれば
ヒントが詰まっているであろう?観るべき"逸品"。

 本作も、「断絶」も"アメリカ南部"というキーワードにおいて地続きの作品であり、
モンテ・ヘルマンは「アメリカを描く」ということについてかなり自覚的だと思える。
その事が両作品に映画としてのリアリティと好ましい風格を与えている。

 

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