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2019年1月19日 (土)

映画「ボヘミアン・ラプソディー」

「ボヘミアン・ラプソディー」
BOHEMIAN RHAPSODY
 
 
原案: アンソニー・マクカーテン,ピーター・モーガン
監督: ブライアン・シンガー
脚本: アンソニー・マクカーテン   
撮影: ニュートン・トーマス・サイジェル
音楽: ジョン・オットマン   
音楽監修: ベッキー・ベンサム   
エグゼクティブ音楽プロデューサー: ブライアン・メイ,ロジャー・テイラー
編集: ジョン・オットマン
衣装デザイン: ジュリアン・デイ
出演: ラミ・マレック,ルーシー・ボーイントン,グウィリム・リー,ベン・ハーディ,
ジョセフ・マッゼロ,エイダン・ギレン,トム・ホランダー,アレン・リーチ

時間: 135分 (2時間15分)
製作年: 2018年/アメリカ

(満足度:☆☆☆☆+)(5個で満点)
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 「クイーン」という70年代初期から80年代にかけて活動した伝説のバンドを
実質的に知らない人々(自分もその一人)には純粋なエンタテイメント作品として、
知っている人々や音楽やロックを語れる人々は存分に、当時を知らない後世の
人々にとっては全てが新しく驚きと共に。

 多くの人々、多様な客層に観てもらう為の要素が本作には多い。世界的な
ヒットは決して偶然ではなく、製作者も十分に狙っていたものだろう。「愛」、「孤独」、
「家族」、「友情」、「富と名声への果て無き欲求」、「裏切り」、「和解」、、、

 "彼ら"が世の中に認められていく様のスピード感は単純に心地よく、ありきたりな
表現をすれば"ジェットコースター"的であり恐らく映画的な見地から不評なのだと
すれば"コンフリクト"の不足という点においてだろう。だが、それは、本作に限った
ことではなくここ10年の、またはそれ以前からのマーケティングリサーチ的側面
言える。

 個人的には、実質的な主人公のマーキュリーのキャラクターと3人のメンバーの
壊れそうで壊れない関係の微妙さが丁寧に描かれているのが好感を持って観た
メンバー四人がそれぞれ学業に専念していた基盤を持つことと割と関係があると
思う(ボーカル担当のフレディ・マーキュリーはデザイン、ギターのブライアン・メイは
天文学、ベースのジョン・ディーコンは電子工学、ドラムスのロジャー・テイラーは
生物学)。

 音楽的素養は勿論の事、青年期においてそれなりの人生の辛酸を既に体験
しているメンバーは着実に成功の階段を上がっていくがフレディはある意味、
当然のように驕り、自分を見失っていく。

 元々のアイデンティティがそもそも何のか、『自分』と何の関係があるのか、
あったとしてもそれが何も意味するのか、富と名声を手にしたとしても、それで、
"全て"が手に入るのか。

 およそ世界中の誰もが思い、想像し、体験し、悩む事をフレディとクイーンという
バンドとそのワールドを通して観客は疑似体験しつつ自分の人生をフィードバック
して共感する。それは、制作陣の狙いであり正しいアプローチで、成功している。

 余りにも衝撃的な歌詞と、余りにも美しい楽曲、余りにも儚い「青春」の一端を
凝縮して表現しているタイトルともになっている「ボヘミアン・ラプソディー」を初めて
聴いたのは高校生の頃だろうか。恐らく、作詞・作曲したフレディが想定した歌詞の
中の"私"の年齢の頃。

 一瞬一瞬が音を立てて流れ去り、決して戻ることのない恐怖。

 "部分否定"ではとても気が済まない。全てを得られるはずもないことは判って
いるから、いっそ全てを葬り去ることを思い決めてしまいたい頃。

  All or nothing.

それができないのであれば、、

 白眉であり、最も好きなシーンはメンバーの絆がより深まる後半のとても静かな
シークエンス。

 マーキュリーを演じたラミ・マレックは、通常なら2ヶ月程度である役作りの期間を
本作においては一年要したとのこと。
それが大袈裟ではないことは作品を観れば
充分に伝わってくる。

 監督のブライアン・シンガーは途中で降板している模様だが、撮影監督の
ニュートン・トーマス・サイジェル、編集のジョン・オットマンなどベテラン陣が脇を
しっかり固めているせいか、何も気にならない(二人は「ユージュアル・サスペクツ」
(1995)、「スーパーマン リターンズ」(2006)などを手掛けている)。

 本作は、『映画』という集団で作成していく総合芸術として多くの要因が奏効した
好例の一つと言えるかもしれない。

 これからも、本作も、『クイーン』というバンドも、メンバーも、彼らが"揃って活躍した"
その時代も発見され、称賛され、愛され、批評され、検証され、考証され、時には
否定され、また、発見され、称賛され、愛されていくのだろう。

 何よりも、今も精力的に活動している当事者中の当事者、ブライアン・メイと
ロジャー・テイラーが満足した作品となっているのも何より幸いである。
 
 
 時が止めどなく過ぎて、人々も数多の生命も生きて、やがては死んでいく。
そんな当たり前の事がとてつもない事なのだと気付いて後悔しながら。
 
 
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