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2020年12月 9日 (水)

映画「ジョーカー」

「ジョーカー」
Joker
  
監督: トッド・フィリップス
脚本: トッド・フィリップス,スコット・シルヴァー
撮影: ローレンス・シャー
音楽: ヒドゥル・グドナドッティル
編集: ジェフ・グロス
出演: ホアキン・フェニックス,ロバート・デ・ニーロ,
ザジー・ビーツ,フランセス・コンロイ
 
 
時間: 122分 (2時間1分)
製作年: 2019年/アメリカ

(満足度:☆☆☆☆+ )(5個で満点)
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芸人を志すアーサー・フレック(ホアキン・フェニックス)は母と二人で暮らし、
アルバイトの大道芸人として生計を立てていた。だが、何をやっても失敗と
嘲笑の的で終わっていくアーサーは追い詰められていく。全く受けなかった
ショーの映像がテレビで取り上げられ。。
 
 
 本作において描かれるところの"ジョーカー"とは一体どんな人物なの
だろうか。

 ・社会(ゴッサム・シティ)または特定の層の人間を激しく憎んでいる。
 ・アナーキストであり孤独である。
 ・寛容性が無い。または、無いように振舞っている。
 ・罪を犯すことに躊躇しない且つ率先して犯す。
 ・恐らくは"哀しみのイコン"の一つである(いつも笑っている理由?)。
 
 これまで描かれ、今後も描かれていくであろう共通項はこんなところ
だろうか。

 「この逆」が"誰"であるのかは多くの人にとって自明である。本作中にも
関係性が上手く織り込まれていて感心しつつ予備知識が無いことで物語の展開を
素直に楽むことが出来た。

 監督のトッド・フィリップスは本作が「9.11後の世界」の作品の一つであり
社会批判をしたくて制作したわけではないと述べている。
 
 作品はその通りでクリストファー・ノーランが明解に描いて喝采を浴びた
「9.11後の世界」の黒騎士が活躍するワールドの系譜に連なる
 
 見事に構築された世界観も、ヒドゥル・グドナドッティルが奏でる音楽も
クリストファー・ノーラン版と親和性が高い。リスペクトを込めて意図的に
やっていると思われる

 アーサー・フレックという哀しい人物を丹念に追いながら彼の背景・周囲を
じっくりじっくり描いていく。物語の着実な進行の面白さに溜飲を下げつつ
その迫真性にはドキュメンタリー出身であるトッド・フィリップスの力量に
驚嘆せざるを得ない
 
 創造されたアーサー・フレックという人物は人間のある側面を正確に照査
している。主演のホアキン・フェニックスはアーサー・フレックに成りきり、
役者としてどこまでアーサーを観客に見せるのかを存分に楽しんでいる。
 
 アーサーは自分と人に楽しんでもらいたいと願い芸人をしているが肝心要の
"その術"を知っているとは言い難い。ゴッサム・シティで知らぬ者のない
名キャスターのマレー・フランクリン(ロバート・デ・ニーロ)にただ憧れている
点から何ら進歩していない

 芸人に向いていないのかと言ったらそんな事はなく、自尊心を持ち、少ない
ながらもテクニックを持っている。だが、それらを「社会」に向けて昇華させて
いく方法論や成功体験を持たないまますっかり年齢を経てしまった。そんな
アーサーに社会(ゴッサム・シティ)は容赦をしない
 

 「自分が倒れていても誰も気に留めず踏みつけていくだろう」
 

 ゴッサム・シティに生まれ落ちなくても芸人として大成することはなかった
だろう。自分が成功できなかったことを何かのせいにしながら小さく小さく
生きていく人間だったのだろう。トッド・フィリップスが描く人物像に
ホアキン・フェニックスは血を通わせている。本作の魅力と鑑賞する意味の多く
はこの点にある。

 ゴッサム・シティもまた現実社会のイコンとして興味深く描かれている。
上流社会から中流・下流に至るまでこの街では誰もが寂しそうである

 誰もがお互いをフォローしないことを心のどこかで知っている。
 
 本作の主人公は"ジョーカー"となる某氏だが、別の某氏も某々氏も
居るあるいは生まれていく(生まれている)ことに観客は気付き、それは
当たり前のようにゴッサム・シティという特定のエリアではない事に気付く。
 
 社会と人の関係性を余りにも鮮やかにエキサイティングに描いてしまった
為にであるから、トッド・フィリップスは前述の見解を述べておかなくては
いけなくなったのだろう。『娯楽作品である』という当たり前の事を。

 "ジョーカー"になってしまった人間が少なくとも約一名いて、社会を
妬み、羨むが"ジョーカー"にはとてもなれない無数の人間達。
 
 "ジョーカー"や他の"堕ちてしまった人間"と対峙する者。

 ゴッサム・シティを守ることとゴッサム・シティの人々を守ること。

 ゴッサム・シティの秩序を守ることはゴッサム・シティの体制を守ること
なのだろうか?

 自分の境遇から逃げるために犯罪を犯すことの正当性の矛盾。

 2時間の物語の中にこれらの芽が加速度的にばら撒かれ選択していく人々を
俯瞰するダイナミズム。

 後半では、人々は劇中から意識がやや離れ、自分自身の境遇と環境について
意識することになるだろう。

 孤独なアナーキストから憎しみのイコンへのトランスフォーメーションの瞬間と
『一体何が生まれたのか』または生まれていなかったかもしれないかについては
観客の数だけまたはそれ以上に答えがあるだろう。

 
 本作は観る側の過程も意図的に作られたことに価値がある。

 トッド・フィリップス×ホアキン・フェニックス版ジョーカーは相当に長く
「愛されていく」かもしれない。
 
 きっとアーサー・フレックはその事だけで十分に満足すべきだった
ただそれだけの人物なのだろう。だからこそ悲劇と災禍は大きく
『物語』はこれからも産まれて語られて続けていくのだろう。

 ゴッサム・シティの内外において。

 "真のヒーロー"とは一体なのだろうか。


 
 
 
 
 

 彼は有名な犯罪者ではなくアスファルトに咲いた小さな花。その花に、
あなたは水をあげるのか、光をあててあげるのか、それとも無視するのか。
どれくらいの間、その花を好きでいられるのか。
 トッド・フィリップス (「ジョーカー」監督/共同脚本/制作)


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